信託という言葉を聞いて、皆様はどのようなイメージを持ちますか?
おそらく、「信託銀行」や「投資信託」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。資産運用の話であれば、そもそも興味がないという方もいらっしゃるでしょうし、「お金持ちだけの話でしょ?」という声も聞こえてきそうです。 まずこのイメージを覆すところから始めて頂きましょう。
▼信託とは?
「信託」とは、資産運用に限った話ではありませんし、多くの資産をお持ちの方だけに関係するものでもありません。むしろ、全ての方々が利用できる、とても身近な財産管理の方法なのです。そして、これまでにご紹介した財産管理手法の欠点を補うことができる、素晴らしい制度でもあります。
詳しくは後述しますが、遺言の限界という事でお話した「複数世代にわたって財産の引継ぎ先を指定する」ということも信託を使えば可能になります。
成年後見制度とは違って、ご自身が認知症などで判断能力を失ってしまった後でも、資産を運用し相続税対策を行うこともできます。
▼信託法
信託の制度は、信託法という法律でその仕組みが規定されています。ちなみに、遺言や生前贈与、委任契約ならびに成年後見制度は、民法を根拠にしています。
さてこの信託法、実は平成18年12月に法律の改正がありました(平成19年9月施行)。この改正は相続や財産管理のあり方を大きく変える、イノベーションとも言える出来事でした。皆さまの想いを遺す方法として最もポピュラーな「遺言」や、判断能力が落ちた方の財産を管理する「成年後見制度」などと比べて、より自由度が高く、柔軟な財産の承継スキームを組み立てることが可能になったからです。
さて、ここで「じゃあ、そもそも信託って何?」「どんな仕組みのことなの?」という疑問にお答えします。信託とは、その名の通り、皆さまの財産を“信”じて“託”す制度です。
1.自分(=委託者)の財産(現金・不動産・有価証券etc…)を、
2.信頼できる人(=受託者)に託し、
3.誰か(=受益者)のために、
4.予め定めた目的に従って、管理・処分してもらう財産管理・財産承継の手法を指します。
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財産を預ける人を「委託者」、預けられた人を「受託者」、預けられた財産から出た利益を受ける人を「受益者」といいます。信託は、原則この三者によって成立する仕組みなので、このことは常に頭に置いておいて下さい。
▼事例から基本構造をイメージする
【事例1】
まずイメージしやすい「投資信託」を例にとってみましょう。投資信託の仕組みは「私の財産をあなたの会社(投資信託の運用会社)に預けるから、私のために運用して、利益が出たら分配してくれ」というものです。
この例では、財産を預けた人が「委託者」、財産を託された運用会社が「受託者」、運用によって得た利益を受ける人が「受益者」となります。このように、委託者と受益者が同じという組み立て方も可能です。
【事例2】
87歳のAさんは、自分が元気なうちに孫のC君にまとまったお金をあげたいと考えています。
しかし、Cくんはまだ小学生。多額の現金を渡すわけにはいきませんし、このケースは「贈与」として受け取ったC君に対して高額な贈与税が発生します。
そこで、C君が二十歳になるまで、Aさんの息子Bさん(お孫さんの親にあたります)にお金を預けて、二十歳になったら渡してもらう事にしました。さて、この場合はどうでしょう。
お金を預けたAさんが「委託者」、財産を託されたBさんが「受託者」、最終的に財産を受け取るC君が受益者です。
このように信託契約は身近なところに存在するのです。次回以降はその利用方法について説明していきます。
司法書士法人オフィスワングループ
司法書士・宅地建物取引士 島田 雄左
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