今回は、入居者が無断でペットを飼育し、退去後にトラブルが発生したケースを考えてみます。
そもそも、入居者には原状回復義務がありますので、退去時には原状に回復した上で賃貸物件を返還しなければなりません。この点、国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。
そのため、賃貸物件に損耗や毀損があるとき、それが通常の使用の範囲内のものであれば賃貸人が費用負担することになり、通常の使用の範囲を超えるようなものであれば入居者が費用負担することになります。
このとき、賃貸借契約書に「ペット飼育禁止条項」を入れておけば、ペットによる臭いや
傷について通常の使用の範囲を超えたものであるとの主張が認められやすくなります。
具体的に検討してみましょう。
例1:猫が爪を立ててスライディングを繰り返し、カーペットが傷だらけになった場合
この場合のカーペットの張替え費用はどちらが負担することになるでしょうか。
カーペットを張り替える場合は通常は一部屋単位となりますので、補修の限度を超えて張替えが必要な場合は入居者が一部屋単位の張替え費用を負担しなければなりません。ただし、税法上カーペットの減価償却資産としての価値は6年で1円となるため、傷だらけにしたものが6年以上が経過しているカーペットであるときは、入居者が負担する張替え工事費用はカーペット代相当額を1円として計算したものとなります。
例2:傷だらけにしたのがカーペットではなくフローリングの場合
一部屋単位で張り替えざるを得ないカーペットとは異なり、フローリングは部分張替えをすることができますので、入居者が負担する張替え工事費用は㎡単位で済みます。ただし、フローリングの部分張替をしてもフローリング全体の価値が上がるわけではありませんので、減価償却資産としての耐用年数(木造住宅で20年程度)は考慮せず、フローリング代相当額は減額されません。
例3:猫が畳やふすま、障子をボロボロにした場合
これらは消耗品としての性質が強く、減価償却資産とはいえないことから、耐用年数に
よって材料代が減額されることはなく、入居者が交換費用の全額を負担しなければなりません。ただし、畳は、損傷が軽微であれば、裏返しや表替えで済むケースもあります。また、畳表ではなく畳床は減価償却資産といえますので、カーペットと同様に6年で価値が1円となるように計算することになります。
このように「ペット飼育禁止条項」があれば、退去時の原状回復費用のうちペットによるものの大半を入居者に負担させることができますので、契約書には入れておくようにしましょう。
(元弁護士Y)
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