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マンション投資の相続税節税に逆風 ~令和4年4月の最高裁判決

▼マンション節税で追徴課税3億円

 令和4年4月19日、相続税申告の更正処分の適否を巡る税務訴訟において、納税者(相続人)側が敗訴する最高裁判決がくだりました。


【事例】

・平成21年に2棟の賃貸マンションを購入した被相続人が、平成24年に亡くなった。

・2棟のマンションの購入価格は約13億8千万円。借入金は約10億円。

・相続税申告において2棟のマンションを約3億3千万円で評価。債務控除等も適用した結果、相続税額は0円で申告された。


 今回の税務訴訟は【事例】の相続税申告に対する税務当局の更正処分(誤りのある税務申告に対して、税務当局がその税額を正す処分)を不当として争ったものです。その結果、地裁・高裁・最高裁すべてで納税者側が敗訴しました。被相続人が購入した賃貸マンションは、税務当局による評価(不動産鑑定評価)によって約12億7千万円となり、相続税が再計算され、約3億円の追徴課税が生じました。

 なお、今回の【事例】には、次のような特徴があります。

  • 高齢の被相続人による、相続直前の賃貸マンション投資であった(被相続人は90歳)

  • 相続税評価額が実勢価格を著しく下回っていた(事例の評価額は、購入価格に対して約24%)

  • 租税回避目的と見られる多額の借入れがあった


 ▼ルール内での節税のはずが…

国税庁の財産評価通達によれば、相続した土地は国税庁の路線価によって一般的な取引価格の8割程度、建物は固定資産税評価額によって5~7割程度の評価額で、相続税を計算することができます。

 賃貸マンションの場合、購入価格とこの評価額が乖離しやすく、建物と敷地を合わせた評価額が、購入価格の半分を下回ることも珍しくありません。

 さらに、賃貸マンションを購入するために銀行などから融資を受けていれば、相続時の借入残高を「債務控除」として、相続財産全体から控除することができます。そのため、高額な融資を受けられる一部の富裕層が相続前に賃貸マンションを購入すれば、不動産の相続税評価のしくみと債務控除の効果によって、相続税の課税対象を大幅に圧縮することができます。

 もちろん【事例】の納税者側も、このルールに即した相続税申告をしていたはずです。

 それではなぜこのような結果になったのかというと、税務当局が財産評価通達6項「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」を用いて、鑑定評価による更正処分を実施し、裁判所もそれを認めたからです。最高裁は、納税者の行いを「実質的な租税負担の公平に反する」と評し、税務当局の更正処分を適切であるとしています。


▼通達改正、早ければ年内か

 昨年末に公開された令和5年度税制改正大綱において、マンションの相続税評価額が市場の売買価格と乖離しているケースがあるとし、これについて「適正化を検討する」との方針が示されました。現在、すでに有識者会議で検討が始まっており、早ければ年内に具体策が提示されるのでは、との見方もあります。今後の賃貸マンション投資による相続税対策は、税制改正の動向を踏まえ、慎重な対応をとらざるを得ない状況になっています。


一級FP技能士 石田夏

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