賃貸経営にとって最も重要な点は、賃貸収入を確保することです。そのためには、空室を減らすための経営努力をし続けることは当然ですが、部屋が埋まっていたとしても、賃料が滞納されていたら意味がありません。
▼新型コロナに起因する滞納
賃料を滞納するような人は速やかに退去してほしいわけですが、法務省民事局は「新型コロナウイルス感染症の影響により3か月程度の賃料不払が生じても、不払の前後の状況等を踏まえ、信頼関係は破壊されていないと判断され、オーナーによる契約解除(立ち退き請求)が認められないケースも多いと考えられます。」との見解を公表しています。
現場の裁判官の実務感覚もこれに近いと推測されることから、賃料滞納がなされてもなお信頼関係の破壊に至らない「不払いの前後の状況」とは何なのかについて事前に検討しておくべきです。
▼日弁連の声明を解説
ここで参考になるのが、日弁連の令和2年5月1日付け会長声明です。日弁連会長は、次のように述べています。
「この点、民法の解釈では、賃料の不払を理由に賃貸借契約を解除するには、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されていることが必要とされる。
この解釈によれば、緊急事態宣言の影響により3か月程度の滞納が生じても、直ちに解除が認められないケースが多いものと考えられる。」
「緊急事態宣言の影響」の意味について、日弁連会長は「緊急事態宣言及びこれに基づく外出自粛要請や事業者に対する休業協力要請等」としています。
つまり、「国や都道府県の要請に応じた結果として賃料が支払えない状況に至ったのに、裁判所が立ち退きを命じるのはおかしい」という価値判断が背景にあるのではないかと推測されます。
そうすると、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の影響によって家賃を支払うことが困難な状況に陥り、国等の支援策を最大限に利用してもなお家賃の滞納に至ってしまった旨を賃借人が具体的に主張立証することが必須であると考えられます。
▼家賃滞納3ヶ月超が突破口?
そして、法務省民事局も日弁連会長も、「3か月程度の家賃の滞納では信頼関係の破壊に至らない場合がある」と述べているにすぎず、3か月を超える家賃滞納があってもなお信頼関係の破壊に至らない場合があるとまでは述べていません。
3か月程度の家賃滞納に至った賃借人がその後も少しずつ家賃を支払い続け、3か月程度の滞納状態をキープすることは通常想定できません。通常は、滞納期間は4か月、5か月、6か月と徐々に増えていくものです。
賃貸経営者としては、賃料滞納に至った原因と滞納期間から賃借人に反論していくことになります(次号に続く)。
元弁護士Y
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