依然として新型コロナウイルスの感染拡大を抑制できない状況が続き、日本経済は大打撃を受けつつあります。
賃貸経営も例外ではありません。賃貸経営に与える最大の影響は、「賃借人の経済状況が悪化して賃料を支払うことができなくなる」ということでしょう。
今回は、賃貸人から賃料減額請求を受けた場合に、どのように対応すべきかについて考察します。
▼賃料減額請求権
そもそも、賃借人には、借地借家法によって賃料減額請求権が認められています。賃料減額請求権は極めて強力な権利であり、賃借人の賃料減額請求が相当である限り、賃貸人に賃料減額請求の意思表示が到達した時点で法律上当然に減額されてしまいます。
そこで、賃借人が新型コロナによって収入減になったことが賃料減額請求の正当な理由になるかどうかが重要な問題になります。
結論を述べると、裁判所は賃料減額請求の正当な理由として賃貸人の収入減を認めることはありません。なぜなら、裁判所は、客観的な基準で算定した適正賃料から実際の賃料が乖離しているかどうか(相場よりも高いかどうか)で判断するからです。
つまり、この場合の賃借人の賃料減額請求は、借地借家法に基づく法的な請求ではなく、法的根拠のない単なるお願いにすぎないということになります。したがって、賃借人から賃料減額請求を受けた賃貸人が、これに応じる法的な義務はありません。
▼家賃の支払いが困難に・・・
家賃の支払い義務がある一方で、賃料の負担に耐えかねた賃借人が賃料を滞納する可能性があります。
滞納額が膨らむ前に退去してくれればよいのですが、賃料の滞納を続けた挙句、裁判所の強制執行で追い出す事態になったとしたら、お金も時間も大変な負担を覚悟しなければなりません。
そのため、賃貸経営者としては、賃料の減額に応じることで賃借人が元の賃料を支払うことができるまで経済的に立ち直ることができるかどうかを慎重に見極めた上で、賃料減額請求に応じるかどうかを判断する必要があるでしょう。
▼家賃支援給付金
賃借物が事業目的の時は、家賃支援給付金を利用することで、条件(5-12月で、1ヶ月の売上が前年比▲50%以上or連続する3ヶ月の売上合計が前年比▲30%以上)を満たせば、家賃の2/3×6ヶ月、法人の場合最大で600万円、個人事業主の場合最大で300万円の給付金を受領できます。
ただし、賃貸人が先走って賃料を減額してしまうと、減額後の賃料の2/3の給付金しか得られなくなってしまいます。制度が後手を踏んでいる点は否めませんが、賃料減額請求に応じるとしても、賃借人が家賃支援給付金を申請した後にすべきです。
とはいえ、家賃支援給付金によって1/3の賃料負担で済んだにもかかわらず経済的に立ち直れない賃借人に対し、賃貸人が独自の賃料減額をしたとして、
果たして賃借人が元の賃料を支払うことができるまでになるのかどうかについては慎重に検討する必要がありそうです。
いずれにしても苦渋の決断をせざるを得ないでしょう。
(元弁護士Y)
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