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賃借人の自殺と損賠賠償①

 日本人は、死を穢れであると考え、人の死を忌み嫌う傾向があります。賃貸物件内で自殺が発生すると、多くの日本人は「心理的嫌悪感」を感じ、購入や賃借を避けようと考えますので、当該物件の価値は大きく下落することになります。自殺で4~5割減、新聞報道がされた殺人事件で7割減とする書籍もあるくらいです。なお、競売では3~5割の減額がなされているようです。

 また、物件内に死臭が染みついて除去することができず、建物の取り壊しを余儀なくされるケースも多いと言われています。更地にしても、当該物件が戸建て住宅地域にあると、周囲の悪評の影響で買い手が現れないケースも珍しくないようです。

 当該物件の所有者としては、発生した人の死を知らせずに売ったり貸したりしたいと思うわけですが、これを隠すと売買契約や賃貸借契約を解除されたり損賠賠償請求を受けたりする法的リスクが発生します。


▼告知に関するガイドライン

 国土交通省は、2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しました。このガイドラインによれば、

  1. 自然死(老衰や病死等)・日常生活の中での不慮の死(転倒や転落事故、溺死・誤嚥等)は告げなくてもよい

  2. 自然死や日常生活の中での不慮の死であっても、特殊清掃が行われたときは3年が経過するまで告げなければならない(3年経過後は告げなくてもよい)

  3. 自然死や日常生活の中での不慮の死以外の人の死は、 3年が経過するまで告げなければならない(3年経過後は告げなくてもよい)

  4. 事件性・周知性・社会に与えた影響等が大きいケースでは、3年経過後であっても告げなければならない

  5. 集合住宅の共用部分で発生した人の死は、その共用部分が日常生活において通常使用する必要があり、住み心地の良さに影響を与えると考えられる部分であれば居住部分で発生した人の死と同様に扱うが、それ以外の共用部分や隣接住戸で発生した人の死は告げなくてもよい(ただし、事件性・周知性・社会に与えた影響等が大きいケースはこの限りでない)

  6. 買主や借主から聞かれた場合には、上記①~⑤に該当しなかったとしても告げなければならない

とされています。

 国交省のガイドラインは過去の裁判例の蓄積の状況を踏まえて作成されたものですので、多くの裁判所ではこのガイドラインに沿った判断がなされるものと思われます。

 そのため、このガイドラインに定められた告知義務に違反して人の死を告知しなければ重大な法的リスク(買主・借主から契約の解除や損賠賠償請求をされるリスク)が発生することになります。


▼価値毀損の影響と損害

 したがって、当該物件で人の死が発生した事実を告げた上で買主や借主を募集することになるわけですが、そうすると冒頭のように当該物件の価値は大きく毀損することになります。特殊清掃で済まなければ壁や床材を剥がした大規模なリフォームをしなければならないでしょうし、当該物件が賃貸物件のときは、半年から1年程度は空室にした上で、1~2年程度は家賃を半額にして借主の募集をなければなりませんので、当該物件の所有者にとっては、これらの原状回復費用や家賃の減額分が損害となります。

 問題は、これらの損害を借主(死亡しているため、請求先は借主の相続人になります)に請求することができるのかということです(続く)。

 元弁護士Y

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