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【原状回復~費用負担】賃借人の子供の落書きはどれ位とれるか?

 1月は、「賃貸住宅における原状回復の考え方」というテーマで、自然損耗は賃貸人が負担し、保管義務違反による価値減少は賃借人が負担するという考え方をお伝えしました。最高裁は、自然損耗とは「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物の劣化又は価値の減少」と定義しています。


 イメージがわくように、具体例で説明します。

▼壁の落書きの費用負担はどれくらいとれるか?

 賃借人の子供がいたずらをして壁に落書きをし、クロスの張替えが必要なケースで考えてみます。

 まず、壁に落書きをすることは建物の普通の使い方とはいえません。したがって、壁に落書きをしたことで発生した建物の価値減少は賃借人が費用負担することになります。

 つぎに、壁に落書きをしたことで発生した建物の価値減少は、クロスの張替えをすることで回復します。したがって、賃借人は自分でクロスの張替えをするか、賃貸人が行ったクロスの張替工事に要した費用を負担しなければなりません。


 ここで問題となるのは、張替えをするクロスの品質と張替工事の施工範囲です。

 まず、張替えをするクロスの品質は、元のクロスと同種・同程度のものとなります。なぜなら、賃借人の義務は、あくまでも壁に落書きをしたことで発生した建物の価値減少を元の水準まで回復すれば足り、元の水準以上にすることまでは求められていないからです。

次に、実務上で最も争いになるのが張替工事の施工範囲です。

 落書き部分のクロスだけを新品に張り替えることを想像してみてください。一見して「あそこのクロスを張り替えたな」と分かってしまいます。そのため、賃貸人としては、外見上の違和感がないようにするため、落書き部分だけではなく、ある程度の広い範囲(例えば一部屋分)のクロスを張り替えてほしいと考えるでしょう。


 しかし、張替工事の施工範囲が広がれば広がるほど、工事代金が高くなりますので、できるだけ安く済ませたいという賃借人にとって不利益になります。

 そこで、賃貸人と賃借人の利害を調整しなければなりません。

裁判所は、その際「損害の公平な分担」という基準で判断します

 子供の落書きを見逃した賃借人が悪いとしても、余りに広範囲のクロスの張替えをさせたのでは賃借人が可哀想です。

「損害の公平な分担」とは、加害者にとって酷ではなく、被害者にとってもある程度納得できる水準でバランスを取ろうという考え方です。


 国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、賃借人が負担すべきなのは「毀損部分を含む一面分の張替え費用」としつつ、工事費用のうち壁紙代金は減価償却資産の耐用年数の考え方を採用し、1年後の壁紙代金は8割、3年後は5割、6年後はゼロであるとしています。ただし、6年後であっても、壁紙の代金がゼロになるだけで、それ以外の壁一面分の張替工事の費用(例えば人件費等)は賃借人が全額負担しなければならないものとしています。

 裁判所もこのガイドラインに沿った判断をするものと考えられますので、原状回復に際してはガイドラインの内容を十分に理解した上で対処することが重要です。


(元弁護士Y)



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