top of page

法例違反がある建物の所有者の責任

 我が国では、安全に建物を利用するため、様々な法令による規制がなされています。

▼各種法令規制

  • 建築基準法ないし同施行令は、建物の構造上の安全性を確保するため、天井の高さから階段の寸法に至るまで厳密なルールを定めています。

  • 消防法は、火災の発生を防止し、早期発見し、安全に退避するため、警報機や消火設備の設置、安全な避難経路の確保等を定めています。

  • 浄化槽法は汚水を適切に処理するため、浄化槽の保守点検や清掃に関するルールを定めています。

 では、これらのルールに違反して事故が発生した場合の所有者の責任はどうなるのでしょうか。

 例えば、建築基準法施行令に違反した寸法の階段で転落事故があったとき、消防法に違反して警報機を設置しなかったり、避難経路を荷物等でふさいだりして避難が遅れて火災に巻き込まれたとき、浄化槽のマンホールや点検口の蓋の破損を放置して転落事故があったときなどです。


▼所有者の損害賠償責任

 ところで、民法七一七条は、土地の工作物が通常備えているべき安全な性状ないし設備を欠いているとき(これを「瑕疵」といいます)、工作物の所有者に対し、無過失責任を定めています。

つまり、工作物の所有者に故意や過失が全くなかったとしても、工作物に瑕疵がある限り、工作物の所有者は被害者に対して損害賠償責任を負うことになります

 そして、多くの裁判例は、建物に法例違反があるときは「瑕疵」にあたると判断しています。また、多くの損害保険の約款は、法令違反によって発生した損害を免責事由としています。


 したがって、法令違反がある建物の所有者は、事故が発生したとき、被害者に対して無過失責任を負うほか、保険金が下りないという極めて深刻なリスクに直面していることになります

 なお、被害者の側としては、工作物責任のほか、一般的な不法行為責任(民法七〇九条)や賃貸借契約上の安全配慮義務違反による債務不履行責任を選択することもできます。

 しかし、一般的な不法行為責任は、加害者に故意または過失があることを被害者の側で主張立証しなければなりませんので、工作物所有者に無過失責任を問うことができるメリットを放棄する実益はありません。


 また、債務不履行責任は、被害者が賃借人のときに選択することができます。

故意または過失が存在しないことを加害者の側で立証しなければならない点で、一般的な不法行為責任より優れています。

 しかし、加害者の側が無過失である旨の立証に成功すると、被害者は損害賠償請求をすることができなくなりますので、通常は無過失責任である工作物責任を選択することになります(なお、工作物責任の消滅時効は3年であるのに対し、債務不履行責任の消滅時効は10年であることから、工作物責任が時効消滅した後に債務不履行責任を選択する実益はあります)。


(元弁護士Y)

閲覧数:6回

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page