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災害で賃貸物件が損壊したとき①

 今回は、地震等の災害で賃貸物件が損壊したとき、賃貸人がどのような法的義務を負うのかについて検討します。

▼物件の修繕が可能な場合

 賃貸物件の修繕が可能であれば、賃貸人には賃貸物件の修繕義務が発生します。

 この修繕義務は、賃貸人の最も基本的な義務(賃貸目的物を賃借人に使用収益させる義務)に属するものですから、天変地異等の不可抗力であっても免責されることはありません。


▼物件が倒壊や修繕不能な場合

 賃貸物件が物理的に倒壊していたり、倒壊はせずとも修繕が技術的に不可能なときは、賃貸物件は法的に滅失したものとして扱われます。

 賃貸物件が滅失すると賃貸借契約は終了しますので、それに伴って賃貸人の修繕義務も消滅することになります。

 ただし、賃貸物件の修繕が技術的に可能であるとしても、社会経済的に見て建物としての利用価値があるといえなければ、賃貸物件は法的には「滅失」したものとして扱われます。

ここでいう「社会経済的に見て建物としての利用価値があるとはいえないとき」とは、修繕するのに新築するのと同程度の多額の費用が掛かることが予想されるときなどです。


 このように、賃貸物件が物理的・技術的・経済的な見地から「滅失」したと評価できるときは、建物が滅失した時点で賃貸借契約は終了し、賃貸人は賃貸目的物を使用収益させる義務(修繕義務を含みます)から免れ、賃借人は賃料支払義務から免れることになります。


 これに対し、賃貸物件が「滅失」したと評価できないときは、賃貸借契約は終了しません。しかし、大震災等では賃貸人が修繕義務を履行できない状況にあったり、賃貸人が修繕義務を履行したくても業者の手配ができなかったりして、賃貸物件が滅失していなくてもその使用収益が不可能な状態が継続することがあります。

 その場合、賃借人は賃貸借契約を解除するまで賃料支払義務を負い続けるのが原則です。

 しかし、賃貸物件が修繕されず、使用収益が制限され、客観的にみて賃貸借契約を締結した目的を達成できない状態になったために賃貸借契約が解除されたときは、公平の見地から、賃貸物件を使用収益できなくなったときから賃料の支払義務を負わないと解釈した高裁判決があります。


▼引越代の負担義務

 賃貸借契約が終了し、賃借人が引越しをするとき、賃貸人には原則として引越代を負担する義務はありません。

 ただし、賃貸物件の周囲の建物が滅失しておらず、賃貸物件のみが滅失しているといった特別の事情があるときは、賃貸物件に何らかの問題があったとされ、引越代を負担しなければならなくなる可能性があります。


 次回は、賃貸物件が滅失に至らず修繕が可能なときの賃貸人の法的義務について検討していきます。


 元弁護士Y



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