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賃借人の自殺と損賠賠償②

 賃貸物件内で賃借人が自殺すると、自殺発生から少なくとも3年間は、前入居者が自殺したという事実を告げた上で新規入居者を募集しなければなりません。

 また、自殺から3年が経過した後であっても、聞かれた場合には正直に告げなければなりません。その結果、当該物件を借りることを忌避する人が出てきます。

 そのため、一般的には、当該物件を半年から一年ほど空室にした上で、二~三年ほど家賃を大幅に減額して新規入居者を募集することになります。当該物件の所有者としては、前入居者が自殺したことで、本来であれば得られるはずだった家賃が得られないという損失を被ることになります。


▼具体的な損害・費用請求

 当該物件の所有者としては、自殺した賃借人の相続人に対し、損害賠償や原状回復費用の請求を検討することになります。

 具体的には、

  1. 本来であれば得られるはずだった家賃相当額

  2. 特殊清掃をしたときはその特殊清掃費用

  3. 特殊清掃では汚損や臭いが除去できず、壁や床を剥がす等のリフォームを行ったときはそのリフォーム費用

  4. 建物の取り壊しを余儀なくされたときは、自殺が発生する直前の当該建物の時価

が「損害」ないし「費用」として考えられます。

 問題は、裁判所がこれらを「損害」や「費用」と認定し、自殺した賃借人の相続人に対して支払いを命じてくれるのかどうかという点です。


▼裁判例~裁判所の判断予想

 裁判例の一般的な傾向からすると、次のように判断されます。

 ①の家賃相当額については、2年分(一年空室+二年半額)程度は認める裁判所が多いと言えるでしょう。しかし、②から④に行くにつれて厳しくなっていきます。②については特殊清掃をしなければならなかった理由、③については特殊清掃では足りずリフォームをしなければならなかった理由、④については特殊清掃やリフォームでは足りず建物を取り壊さなければならなかった理由について、具体的な証拠を添えた丁寧な主張が必須と言えます。

 ただし、血痕が室内全体に付着したケースにおいて、きれいに拭き取れたから壁紙の張り替え費用は損害とは認めないとした裁判例があるくらいですので、厳しい裁判になることが想定されます。

 また、国交省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」を公表しているため、裁判所は、損害額の算定にあたってこのガイドラインの記載に沿った判断をするものと思われます。ちなみに、壁紙については「6年で残存価値1円となる」と記載されているため、当該物件の所有者にとって非常に厳しい判断になることが予想されます。

 このように、賃借人が自殺することは賃貸経営にとって重大なリスクになる(多大な損失を被るものの、自殺した賃借人の相続人に請求できる損害や費用は一部にとどまる)ということを念頭

に置いておくべきです。 

元弁護士Y

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