この連載も3回目となりますがここでいったん前回までのおさらいをしておきたいと思います。
▼前回までのおさらい
まずは建物の相続税評価は固定資産税評価に基づくこと、さらに第1回目が古い物件にとって固定資産税評価は割高、第2回目が新築物件にとって固定資産税評価は
割安と言う話でした。
実例として9200万円で建築したアパートの翌年評価が4500万円となった例を挙げさせていただきました。9200万円から4500万円を差引けば差額は4700万円となります。この例では4700万円の財産圧縮に成功し、仮に相続税の税率を10%としたならば、470万円の相続税を節税したことになると言うお話でした。
▼賃貸用建物の評価
ここまで「建物」の評価は「固定資産税評価」の流用ですよと言い続けてきましたが、実は自己が使用している建物と賃貸に出している建物では、相続税の評価が異なるのです。
土地を貸している場合、借りている側の権利が借地権として強く保護されることは皆さ
んご存知かと思います。建物もこれと同様で、借りている側の権利が借家権として強く保護
されます。
そうしますと、オーナーは自分の建物であっても自由な利用に制限が課せられます。そのため、賃貸している建物の相続税評価では「借家権分」の評価を下げることが認められています。それが「借家権割合」で、その割合は何と3割です。
余談ですが以前は大阪府の借家権割合が4割でしたが、現在は大阪府でも借家権割合が3割に改められ、現状日本中全ての地域で借家権割合は3割となっています。
▼具体的な計算方法
賃貸物件は3割下げていいよと言うお話をしました。例えば第1回目に登場した古い貸家1軒、固定資産税評価が30万円でした。オーナーがお亡くなりになる時点で借家人がいた場合、30万円×3割=9万円の借家権分を引いて、評価は21万円と算定されます。
では、アパートのような集合住宅ではどのように計算するのでしょうか。例えば全室同じ床面積の1DK、6部屋のアパートで固定資産税評価が2400万円とします。オーナーがお亡くなりになった時点で1室空きがあった場合、5部屋は借家権分を差引くことが出来ますが、空室は借家権分を差引くことは出来ません。
この場合、入居者のある部分は2400万円÷6部屋×5部屋=2000万円。これに対する借家権分は2000万円×3割=600万円。全体2400万円から借家権600万円を差引いた1800万円が相続税の評価額となります。
▼満室物件は評価が低い
この例で、オーナーがお亡くなりになった時点で満室であれば、全ての部屋に借家権分の控除が適用出来るので相続税の評価が更に下がることがお分かり頂けるかと思います。
そうです、満室物件は現実の世界では高収益物件ですが、相続税の世界では低評価物件なのです。
▼たまたま空室だったらどうする?
それでは、普段は満室だったのに、
オーナーのお亡くなりになった時期が年度末で空室が多い時期だったらどうでしょうか。この点は実務上で国税と揉めるポイントですので、次回はそのお話をしたいと思います。
税理士法人吉田会計 税理士 吉田和義
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