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アパート老朽化のリスク問題③

 建物の耐震基準には、旧耐震基準(昭和56年5月まで)と新耐震基準(昭和56年6月以降)の2種類あります。

 新耐震基準では、震度7程度の地震でも倒壊しないように、①壁量を増やし、②基礎に鉄筋を入れ、③柱や梁の接合部を金物で補強することが求められています。今回はこの耐震性の問題についてお伝えしていきます。


▼老朽化に伴う耐震性の問題

 建物が老朽化すると、ひび割れ、水漏れ、たわみ、傾き、腐朽、シロアリ、カビ等が発生し、その

結果として耐震基準を満たさなくなることがあります。

 賃貸建物が老朽化によって新築当時の耐震基準を満たさなくなったときは、賃貸人には修繕義務があるため、無筋の基礎の横に鉄筋コンクリートの基礎を設置してアンカーで固定する、柱と柱の間に筋かいを設置する、接合部を金具で固定する等の耐震改修工事をしなければなりません。

 耐震基準を満たさなくなった建物を放置すると、その建物が倒壊する等して賃借人や第三者に損害が発生したとき、工作物の「瑕疵」ありとして所有者は無過失責任を負うことになります。

 なお、近隣の耐震基準を満たす建物も倒壊しているときは、賃貸建物が耐震基準を満たさなかったとしても倒壊は不可抗力だったと反論したくなりますが、「本件建物は、結局は本件地震により倒壊する運命にあったとしても、仮に建築当時の基準により通常有すべき安全性を備えていたとすれば、その倒壊の状況は、壁の倒れる順序・方向、建物倒壊までの時間等の点で本件の実際の倒壊状況と同様であったとまで推認することはできず、実際の施工不備の点を考慮すると、むしろ大いに異なるものとなっていたと考えるのが自然であって、本件賃借人らの死傷の原因

となった、一階部分が完全に押しつぶされる形での倒壊には至らなかった可能性もあ」るというように裁判所に判断され、損害賠償責任が認められる法的リスクがあります。


▼旧耐震建物の対応策

 旧耐震基準で建築された建物は築43年以上が経過しているため、「耐震改修工事をして旧耐震基準を回復するよりは、取り壊して新耐震基準の建物を新築するほうが経済合理性にかなう」と考える賃貸経営者も多いことでしょう。

 とはいえ、賃貸建物に賃借人が居住している場合には、賃借人に退去してもらわなければ建て替えることができませんが、「建物の立退きと正当事由」のところでご説明したとおり、「正当事由」がなければ立退きは認められません。

 そして、多くの裁判所は、耐震診断で倒壊の可能性があるとされたとしてもそれだけで「正当事由」ありと判断することはなく、相当額の立退料の提供があって初めて「正当事由」を認めます。ただし、耐震改修工事によって倒壊を免れることができる場合には、相当額の立退料を提供したとしても「正当事由」が認められないリスクがあるため、十分な主張立証を尽くすことは当然と

して、相場を超える立退料の提供を申し出ることも検討すべきです。


 このように、老朽化した賃貸建物に賃借人がいると面倒な法律問題が発生するため、空室が発生したり契約更新をしたりするタイミングで「定期借家契約」にするなどの対策をするのがよいでしょう。

元弁護士Y


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