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借主からの造作買取請求 賃貸人はどうする?②

 前回に続いて「借主からの造作請求権が行使された場合」を考えていきます。


▼売買契約の成立

 賃借人が造作買取請求権を行使すると、賃借人と賃貸人との間に、売買契約が強制的に成立することになります。

 この場合の売買代金は、造作の「時価」(造作を建物に付加したままの状態において造作自体が本来有する価値)となります。

 そして、賃借人は、売買代金(時価)の支払いまで造作の引き渡しを拒否することができますが(同時履行の抗弁権、留置権)、判例は「建物の明渡しを拒否することはできない」と判断しています(最高裁判所昭和29年7月22日判決)。

 そのため、賃貸人の側からすれば、賃貸借契約の終了を理由として建物の明渡しを求めることで、賃借人に対し、建物から造作を取り外して造作の引渡しを拒否するか、あるいは造作を付加したままの建物を引き渡すかの二者択一を迫ることができます。


▼家賃滞納がある場合

 また、判例で、賃貸借契約が賃借人の賃料不払い等の理由で債務不履行解除されたときは、造作買取請求権は過失なき善良な賃借人を保護する規定であるとして賃借人の造作買取請求権を認めていません(最高裁判所昭和31年4月6日判決)。

 そのため、賃貸人の側からすれば、賃借人の側に賃貸借契約を債務不履行解除できるだけの帰責事由があるときは、賃貸借契約を債務不履行解除してしまうことで賃借人の造作買取請求権を封じることができます。


 なお、合意解除(契約期間の途中で賃貸人と賃借人が合意して賃貸借契約を終了するもの)の場合であっても造作買取請求権は発生すると解釈されていますので、賃貸人としては、造作買取請求権を放棄する旨を合意解除をする際の特約に入れることができないかどうかについて賃借人と交渉すべきです。


▼家主側の契約時の対応策

 このように造作買取請求権が発生すると、賃貸人は、造作を時価で買い取らなければならなくなり、多大な経済的ダメージを受ける可能性があります。本稿のような方法で妥協点を探ることもできますが、お金も時間も労力もかかってしまうことから、賃貸借契約締結時に「造作買取請求権は放棄する」との条項を取り決め、賃貸借契約書に明記しておくべきです。


 なお、前回、賃借人が張り替えた床板等は、建物に付合して独立性を失っていることから「造作」には該当しないと述べましたが、これらが必要費ないし有益費に該当するときは償還請求を受けることになります(民法六百八条)。

 そのため、造作買取請求権を放棄する旨の特約のほかに、必要費や有益費の償還請求権を放棄する旨の特約についても賃貸借契約書に明記しておくべきです。


 ちなみに必要費を大修繕と小修繕とに分け、大修繕は特約があっても免責されないとするのが裁判例ですので、大修繕と小修繕とを区別することなく特約で放棄させると、特約全体が無効になり、小修繕についても賃貸人が負担しなければならなくなるリスクが発生するため、注意が必要です。


元弁護士Y

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