障害がある長男のために信託をしたい」と要望されたケースを紹介したいと思います。
家族構成は、本人A、障害がある長男B、長女Cの3人です。そして、本人Aの財産は次の通りです。
1.不動産 ①自宅不動産 ②収益不動産
2.預貯金 約6000万円
Aさんと長女のCさんから、家族のことで相談があるということでお会いしました。Aさんが高齢
になってきたので、相続について考えているとのことでした。遺言を検討しているとのことでしたので、色々とヒアリングしてみると、Aさんの想いは、次のようなものでした。
「長男Bは、先天的に精神的な障害を持っており、財産管理に不安がある状態。今は色々と手助けをしているけど、自分が亡くなった後、長男Bの生活が心配。とにかく、長男の生活のために、まとまったお金と収益不動産の家賃を渡せるような遺言を書いておきたい。その上で、自分は、そろそろ介護施設に入って子どもたちに迷惑がかからないようにしたい。当面、自宅はそのままにしておいて欲しいけれど、将来的に戻る見込みがないような状況になったら、売却しても構わない。」
ここで、唯一安心できるのは、Aさんが亡くなった後、長男Bの面倒は長女Cが責任をもって見ると日頃から言ってくれていることでした。
このケースでは、信頼できる長女Cが協力していただけるということでしたので、委託者をA、受託者を長女C、第一受益者A、第二受益者をBとする契約信託を提案しました。信託財産は、金銭及
び不動産です。
信託契約の内容としては、Aさんが亡くなったら、収益不動産の家賃収入を受益者である長男Bに渡すように設定しておき、生活資金を確保します。また、自宅不動産を受託者の権限で売却できるようにしておけば、Aさんが認知症になっても売却ができます。
このケースでは、信頼できる長女が受託者なので敢えて設定しませんでしたが、受託者が勝手に不動産を売却できないように信託監督人を置き、売却時には信託監督人の同意を得る必要があるという信託にする事もできます。
実際の手続きとしては、委託者であるAさんと、受託者である長女のCさんで、信託契約を行います。信託契約書は、公証役場で公正証書にて作成します。これをもって、不動産の名義は、受託者のCさんへ変更。金融機関で受託者の口座を開設します。
▼解決のポイント・民事信託を使う効果
遺言で長男に財産を遺してしまうと、長男自身は財産を管理する能力に乏しいので、成年後見制度を活用することになるでしょう。そうすると、財産の柔軟な運用は難しくなります。さらに、自宅の売却も必要があれば行うという事ですから、委託者が認知症等になっても、スムースに売却できる状態を作っておける点も、信託のメリットとして挙げられます。
障害があるご家族のために、自分の死後も定期的な支援を行いたいと考える方は多いのではないでしょうか。このようなご要望にお応えできるのも、信託の特徴です。
司法書士法人オフィスワングループ
司法書士・宅地建物取引士 島田 雄左
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