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所有者不明土地に関連する民法改正〈相隣関係の見直し②〉

 所有者不明土地への対策の一環として、令和5年4月1日に「相隣関係」に関する規定が改正されました。今回は、ライフライン設備の設置・使用権(民法第213条の2等)について解説します。


▼改正の経緯

 民法改正によって、電気・ガス・水道・通信等のライフラインを使用するために、他人の土地を使用する権利や他人の設備を使用する権利の規定が新設されました。これまでも改正前の相隣関係規定の類推適用によって、他人の土地等を使用することは可能でしたが、明文規定がなかったため、細かい場面で疑問が生じていました。


▼設備設置権・使用権の明確化

 ライフライン設備のために必要な範囲内であれば、他人の土地や設備を使用できることが明確化されました。ただし、方法が複数ある場合は、他人の土地や設備にとって、最も損害が少ない方法を選択しなければなりません。


▽使用に応じてもらえない場合

 権利を有していても自力執行は認められていません。したがって使用に応じてもらえない場合は、裁判手続きにおいて妨害禁止の判決を求める必要があります。

※空き地で使用している者がおらず、使用を妨害されるおそれがなければ、個別の事案にもよりますが、基本的には裁判を経ずに使用できるとされています。



▼事前通知の義務化

 ライフライン設備のために他人の土地や設備を使用する場合は、あらかじめ、その所有者等に、使用する目的・場所・方法を通知する必要があります。


▽通知の時期

 一般的には2週間~1カ月程度とされています。目的や場所等から相手の準備期間を考慮する必要があります。


▽通知の範囲

 ①他人の土地を使用するか、②他人の設備を使用するかによって、通知義務の範囲が異なります。

 ①他人の土地にライフライン設備を設置する場合、土地の所有者に通知することに加えて、その土地に使用者(例:賃借人など)が別にいる場合、使用者にも通知義務が発生します。

 ②他人の設備を使用する場合、所有者に対する通知義務があります。ただし、使用者にも通知することが望ましいとされています。


▽所有者不明の場合

 簡易裁判所の公示によって意思表示をする必要があります。


▼償金・費用負担の範囲

 損害を発生させた場合の償金や、設備利用の費用を支払う義務が生じます。

①他人の土地に設備を設置する場合

・設置工事のための一時的な使用

 例えば工作物や竹木の除去など、所有者等に生じた損害について償金を支払う義務があります。

・設備設置による継続的な使用

 例えば設備が地上に設置され、その場所の使用が制限されるような場合、使用料として償金を支払う義務があります(1年ごとの定期払い可)。

※損害が認められなければ、これらの償金は発生しません。例えば、設備設置が地下で、地上の利用を制限しない場合、損害が認められない場合があります。


②他人の設備を使用する場合

 設備の維持費等の費用を、使用する割合に応じて負担します。なお、使用開始時に生じた損害があれば、償金の支払い義務が生じます。


▽承諾料の支払いを求められた場合

 設備設置などの承諾に対する料金を支払う義務はありません。

一級FP技能士 石田夏

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