賃貸目的物に物理的欠陥があってはならないのは当然ですが、心理的な瑕疵(かし)があってもなりません。
▼心理的瑕疵とは?
心理的な瑕疵とは、「家屋として通常有すべき住み心地の良さを欠くとき」であり、通常一般人を基準に判断されます。
裁判例では、居住者の自殺、風俗営業・暴力団事務所・オウム真理教のアジトに利用されていたことなどが心理的な瑕疵に該当すると判断されています。
▼心理的瑕疵に対する責任
賃貸目的物に心理的な瑕疵があると、賃貸人は、賃借人から、①賃貸借契約の解除、②損害賠償請求を受けることになります(これらは旧民法では「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものですが、現民法では「契約不適合責任」と呼ばれています)。
▽①契約解除
まず、心理的瑕疵を理由とする賃貸借契約の解除は、解除告知(賃貸借契約を将来的に消滅させるもの)とは異なります。
そのため、賃貸借契約書に「解除告知は1か月前までにすること」といった記載があったとしても、賃借人はそれに拘束されず、1か月分の賃料を支払うことなく直ちに賃貸借契約を解除することができます。
▽②損害賠償請求
つぎに、心理的瑕疵を理由とする損害賠償請求についてですが、転居のための引っ越し費用や既に支払済みの礼金も「損害」に該当しますので、賃貸人は、賃借人からこれらの損害賠償請求があったときは、これらを支払わなければなりません。
ここで注意すべきは、賃貸目的物の心理的な瑕疵について、賃貸人が知らなかったとしても賃貸人は法的責任(契約不適合責任)を負うという点です。賃貸人が十分な調査を尽くしていたとしても、賃貸目的物に心理的瑕疵がある限り、賃貸人は契約不適合責任を免れることはできません。
ちなみに、仲介業者(宅建業者)は、調査義務と説明義務を尽くせば法的責任を免れることができます。
国交省より『事故物件告知ガイドライン案』が発表されていますが、このガイドラインのタイトルからも明らかなとおり、宅建業者が宅建業法によって義務付けられている責務の判断基準として位置づけられており、民法の契約不適合責任の判断基準ではないという点に留意すべきです。
▼事例
次のような事例でどうなるかを考えてみましょう。
あるアパートの一室(当該物件)で、6年前に居住者が自殺をしました。
仲介業者とオーナーはこの事実を知っていたものの、これを隠して賃貸借契約の締結に至りました。賃借人は、引っ越した後、借りた部屋で6年前に自殺があったことを知りました。なお、ガイドラインには「事案の発生から概ね3年間は、借主に対してこれを告げるものとする」と記載されています。
判例では、このケースの多くは仲介業者もオーナーも契約不適合責任を負うことになります。このあたりの詳しい解説を次号で行います。
(元弁護士Y)
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