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物件の心理的瑕疵と賃貸人の法的責任②

 先月号の最後に簡単な事例をあげました。6年前に発生した物件内での自殺を隠して賃貸借契約を締結したとしたら、仲介業者とオーナーは法的責任を負う可能性があるというものです。


▼心理的瑕疵の判断

 先月号でお伝えしたとおり、心理的瑕疵の判断基準は、通常一般人が「家屋として通常有すべき住み心地の良さを欠くとき」かどうかになります。

 心理的瑕疵が認められると、賃貸借契約を締結する前に明確に告知しなければ契約不適合責任が発生することになります。


 この心理的瑕疵の有無について明確な判断基準を事前に定立するのは非常に難しいのですが、例えば死亡事故が発生したケースでは、死亡事故が発生した時期、死亡事故の態様(自殺か事故か自然死か)、死者の数、自殺があった場所(賃貸物件内か隣室か共用部分か、リビングルームや寝室など多くの時間を過ごす場所か)、その後の居住者の有無、死亡事故が発生した建物が現存するか建て替えられたか、近隣での周知性などの事情を総合的に考慮して判断されることになります。


 ひとくちに自殺と言っても様々な態様があります。睡眠薬を飲んで布団の中で自殺した場合は自然死と態様がほぼ等しいことから心理的な抵抗は少ないでしょうが、リビングで首を吊ったり風呂場で手首を切ったりして自殺した場合は、いくら現場を丁寧に清掃したとしても心理的な抵抗が大きいと言えます。

 また、自然死であったとしても、発見が遅れて腐敗が進んでしまい特殊清掃がなされた場合は、自殺直後に発見された場合よりも心理的抵抗が大きいと言えるでしょう。

 結局のところ、ケースバイケースで判断するしかなく、明確な基準を事前に定立することは極めて困難です。


▼国交省ガイドラインの解釈

 国交省のガイドライン案は、適用範囲を居住用不動産の名で人の死が発生した場合に限定し、事業用物件、過去の使用用途(例えば風俗営業に利用されていた)、周辺環境(例えば近くに暴力団事務所がある)、隣接戸や前面道路は対象外にすることで、一応の基準を定立することになります。

 ただし、この基準は、宅建業者に対して最低限の義務を課すものにすぎず、契約不適合責任を発生させないための実際の告知義務は、ガイドラインで要求されている告知義務よりも重いという点に注意する必要があります。

 例えば、国交省のガイドラインは「概ね3年間」の告知義務を要求しています。そうすると、6年前に自殺が発生したということは、ガイドラインで要求されている3年間の2倍の期間になるため告知しなくてもよいように思えますが、多くの裁判所は3年後であっても告知義務を認めますし、死後10年程度までであれば瑕疵と認定されうる可能性があると指摘する文献も存在します。


 したがって、オーナーとしては、「この情報を告げてしまうとお客さんが嫌がる(住み心地の良さが害されると感じる)のではないか」と思われる情報を隠すと法的責任(解除や損害賠償)を問われるリスクが発生する旨を念頭に置いた上で行動したほうがよいと思われます。

(元弁護士Y)



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