コロナ禍の影響で、自宅で仕事をするケースが増えています。賃貸経営者の立場からすると、居住用として貸した物件内で賃借人が仕事をすることは想定しておらず、仕事で利用するのであればもっと賃料を支払ってほしいという気持ちになることもあるかもしれませんし、利用の仕方によっては賃貸借契約を解消して物件から出ていってほしいと思うこともあるかもしれません。
そこで、今回は、居住用として貸した物件内で賃借人が事業をすることがどの程度許されるのかについて、具体的に検討してみます。
▼賃貸借契約に基づく判断
そもそも、賃貸借契約は、当事者間の継続的な信頼関係を前提とする契約です。
そのため、物件の利用実態が信頼関係を破壊する程度まで至っているかどうかということが重要な判断基準となります。
具体的には、通常の一般的な賃貸人や他の居住者であればやめてほしいと感じるような利用実態であれば許されないという方向で解釈されることになります。
▼テレワーク利用のケース
まずは、テレワークについて考えてみます。賃借人自身が自宅でデスクワークをするだけであれば、これを禁止することは難しいでしょう。
なぜなら、建物が傷むわけでも他の居住者に迷惑をかけるわけでもないからです。
これに対し、賃借人が第三者にテレワークオフィスとして物件を提供するケースは禁止することができるでしょう。なぜなら、居住者でない第三者が出入りすることになると、他の居住者の居住環境が乱されることになりますし、賃貸人としても、物件を又貸しして利益を上げることを想定して賃料を設定したわけではないからです。
▼SOHO利用のケース
つぎに、「SOHO」について考えてみます。「SOHO」とは、自営業者が自宅の一部をオフィスにすることを言います。テレワークと同様に、その物件の居住者でない第三者が出入りしたり、看板や表札等を設置したりするのでない限り、禁止するのは難しいでしょう。
▼倉庫利用のケース
最後に、倉庫として利用されるケースを考えてみます。最近では、家電量販店でアップル製品や任天堂SWITCHを大量に仕入れて、中国系のショップに転売する「テンバイヤー」が社会問題化し、不織布マスクを転売する人まで出現して法改正に至る騒ぎにまでなりました。
このケースでも、賃借人の居住実態があり、物件の一部を荷物置き場にしている程度であれば、不特定多数の第三者が出入りしたりするのでない限り、禁止するのは難しいでしょう。ただし、賃借人の居住実態がなく、純粋に倉庫として利用されているときは、賃貸人はその利用を禁止することができるでしょう。
このように、賃借人の居住実態がなかったり、居住者でない第三者が出入りしていたり、物件が事業用として利用されているような外観があったりすると、平穏な居住環境が乱され他の居住者が安心して居住することができなくなります。そのような状況では居住用物件としての価値が下がるリスクが発生するため、利用の禁止が認められやすくなると言えます。
元弁護士Y
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