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賃借人が高齢者の借家契約②

 前回に引き続き、賃借人が高齢者であることを理由に賃借契約を解消することができるかどうかについて検討します。

 前回は、賃貸借契約の締結の時点で、入居希望者が高齢者であることを理由に入居申込みを拒絶することができるかどうかについて検討しました。

今回は、賃貸借契約の更新の時点で、賃借人が高齢者であることを理由に更新を拒絶することができるかどうかを検討します。


▼更新拒絶・解約申し入れ

 賃貸人が賃貸借契約の解消を求めるとき、賃貸借契約に期間の定めがあるときには更新拒絶、期間の定めがないときには解約申入れをすることになります。

借地借家法28条は、更新拒絶ないし解約申入れについて、「正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」と規定し、正当事由の判断要素として、次の3つを列挙しています。

  1. 賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情

  2. 賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況

  3. 立退料の提供の有無及び金額

 これらの中で最も重視されるものは①です。つまり、賃貸人の側に建物を必要とする強い事情があれば明渡しが認められやすくなり、他方で、賃借人の側に建物を必要とする強い事情があれば明渡しは認められにくくなります。

 賃借人が高齢者であれば、介護施設や医療機関を利用する頻度が多くなるでしょうから、転居

によって介護や通院等に不便が生じるかどうかについても正当事由の判断要素となります。

 また、賃貸人が高齢者であれば、一般に居住期間は長期に及んでおり、その地域における人間関係が深まり、地域に対する愛着も強まっているものと思われます。

 このように、賃借人が高齢者であればあるほど、その生活環境を維持し、同じ建物に居住し続ける利益は大きくなります。

 また、前回検討したように、賃貸借契約を締結する時点では、賃貸人は入期希望者を自由に選択することができますので、明渡しを求められた高齢者が高齢であればあるほど、一般に次の転居先を探すことが困難になります。

 そのため、賃借人がこれらの事情を主張して明渡しを拒絶するときは、賃貸人の側で単に立退料を提供しただけでは正当事由と認められず、代替家屋の提供ないし紹介をしたり、移転費用の補償をしたりするなど更なる努力をしなければなりません。

 もっとも、これらの前提として、賃貸人の側にも建物を必要とする事情がなければなりません。「この賃借人は高齢者だから、出ていってもらってもっと若い人に入ってほしい」ということでは、

裁判所が正当事由を認めることはありません。

 このように、高齢者の入居を受け入れてしまうと、賃貸人の側から賃貸借契約を解消することは極めて困難となりますので、高齢者を入居者として受け入れる際は、この点をあらかじめ覚悟しておくべきです。


(元弁護士Y)


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