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賃借人の破産と残置物②

▼ベーカリー破産後の再契約

 今年2月に破産申立てをしたベーカリーチェーン会社(株式会社)のケースでは、店長のひとりが自分が店長をしていた店舗を居抜きで借りてパン屋をしたいと考え、賃貸人・賃借人(のちの破産会社。以下「破産会社」と略します)・元店長の三者で協議し、次の合意に至ったようです。


  1. 賃貸人と破産会社は賃貸借契約を合意解除する。

  2. 破産会社は店舗内の什器備品など一切の物の所有権を放棄する。

  3. 賃貸人と元店長は店舗の現状有姿のままで賃貸借契約を締結する。

  4. 賃貸人は元店長が店舗内にある什器備品など一切の物を使用することを承諾する。


▼本件のスキームを解説

 賃貸経営者の立場でこのスキームを考えてみましょう。

 このまま破産会社との間で賃貸借契約を維持したとしても、賃料相当損害金が増え続けるだけであり、いずれは破産管財人によって解除されてしまうことになります。

 また、解除後の原状回復費用についても、破産会社には支払能力がないため敷金を超えた部分は賃貸人が負担することになります。

 これに対し、元店長が居抜きで借りてくれれば、賃貸人は什器備品の原状回復費用を負担せずに済みますし、元店長が借りるまでに発生した破産会社の未払賃料は敷金と相殺することで相当程度の回収が見込めます。

 破産会社が什器備品の所有権を放棄したことで、これらの所有権は店舗の所有者である賃貸人が取得することになりますが、元店長と賃貸借契約を締結するに際し、元店長の無償使用を認める代わりに賃貸借契約終了時にはこれらの什器備品を撤去することを元店長と合意すれば、賃貸人にとって何も不利益はないことになります。


▽破産管財人とリースの問題

 問題は、破産開始決定後に裁判所に選任された破産管財人によってこのスキームが否認される可能性ですが、パン屋で使い古した什器備品の財産的価値は乏しく、原状回復費用のほうが上回るでしょうから、そのことを破産会社が破産管財人に十分に説明すれば済む話であると思われます。

 また、什器備品の中にリース物件が含まれているときは賃貸人がリース物件に関して何らかの権利を取得すると面倒な法律関係に巻き込まれますので、破産会社、リース会社、元店長の三者での協議に委ねればよいでしょう。


 このように考えると、このスキームは、賃貸物件を利用して行われていた事業に利益を生み出す価値があり、やる気のある元従業員がいることが前提であるとはいえ、賃貸経営者にとっても非常に素晴らしいスキームであると言えます。

 ただし、元々の事業に価値がないと、新賃借人が賃料を支払うことができず、賃貸経営者の損害がむしろ増えてしまうリスクがあることから、この点は慎重に見極める必要があります。 


 元弁護士Y

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