住居用として貸し渡した賃貸物件において、賃借人が商売を始めたとき、賃貸人は何ができるでしょうか?
2つのケースで考えてみます。
▼ケース①マッサージ店
例えば、突然ある部屋の人の出入りが妙に多くなったので調べてみると、風紀上問題があり
そうなマッサージ店をしていることが分かったというケースを想像してみてくさい。
賃貸人としては、そのような商売は直ちにやめてもらいたいと思うでしょう。賃貸借契約を解除して、そのような商売を無断で始めるような人にはすぐに出て行ってほしいと考えるかもしれません。
民法は、借主に対し、「用法遵守義務」を課しています。用法遵守義務とは、「契約又は目的物の性質によって定まった用法に従って、目的物を使用収益する義務」のことです。
つまり、「住居として使用するという方法」を定めた賃貸借契約を締結したのであれば、賃借人は住居として使用しなければならず、商売をすることはできないということになります。
なお、賃貸借契約書に「住居目的」であることが明記されていなかったとしても、建物の構造・立地・周囲の環境等から住居目的で貸したことが前提であるといえるときも同じです。
では、賃借人が用法遵守義務に違反し、住居用のアパートの一室で商売を始めたとき、賃貸人は賃貸借契約を解除することができるのでしょうか?
結論としては、風紀上問題がありそうなマッサージ店であれば、他の住人の居住環境が悪化することは明らかですので、多くの裁判所は、賃貸借契約の解除を認める判断をすることになるでしょう。
▼ケース②学習塾
では個人の学習塾を始めたケースはどうでしょうか。
多くの生徒が出入りし、周囲でたむろったりゴミを捨てたりして他の住人に迷惑がかかるようであ
れば、解除が認められる方向で判断されることになるでしょう。
しかし、生徒数が少なく建物が痛むことがなさそうなときは解除が認められない方向で判断されることになるでしょう。
▼ポイントは信頼関係!
賃借人が用法遵守義務に違反したと言えるときでも、そのことを理由に賃貸借契約を解除するには、用法遵守義務違反によって賃貸借契約を基礎づける当事者間の信頼関係が破壊されたと言えるときでなければなりません。
賃貸人にとって、賃借人が目的物をどのような目的で利用するのかは重大な関心事です。なぜなら、賃借人の居住目的によっては、建物が傷んだり、他の住人の居住環境が乱されることがあるからです。
そのため、住居目的で貸したのに、店舗・事務所・工場等の営業目的で利用されたときは、多くの裁判所は、信頼関係は破壊されたと判断し、賃貸人による賃貸借契約の解除が認められることになります。
ただし、商売と言っても内職をする程度であれば、用法遵守義務違反は認められるものの、賃貸借契約を解除することまではできません。
元弁護士Y
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