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建物の立ち退きと「正当事由」①

▼賃貸借契約の種類と解約退去

 建物賃貸借契約(以下「借家契約」と言います)には、①通常の借家契約(普通借家契約)と②定期借家契約があります。

 これらの最大の違いは、通常の借家契約では契約期間を定めたとしても原則として更新される(更新を拒絶するためには「正当事由」が必要である)のに対し、定期借家契約では契約期間の満了によって終了する(更新はされない)という点です。

 ちなみに、通常の借家契約で契約期間を定めなかったときは、賃貸人から解約申入れをすることになりますが、賃貸人による解約申入れには「正当事由」が必要です。通常の借家契約では、「正当事由」がない限り、賃貸人は更新拒絶や解約申入れをすることができませんので、賃貸借契約を終了させて賃借人に立ち退きを求めるためには「正当事由」があることが必須条件となります。

 ここで「立退料を支払えばよいのではないか」と疑問を持たれた方もいると思います。賃借人が立退料を受け取って賃貸借契約の終了に同意してくれればよいのですが、問題は、賃借人から「立退料は要らないので賃貸借契約をそのまま継続してほしい」と求められたときです。

 このとき、賃借人の意思に反して賃貸借契約の更新を拒絶したり解約申入れをしたりするには「正当事由」が存在しなければなりません。


▼正当事由の判断基準

 借地借家法28条は、「正当事由」の判断基準について、次の5点を明記しています。


  1. 賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情

  2. 賃貸借に関する従前の経過

  3. 建物の利用状況

  4. 建物の現況

  5. 立退料の金額


の5点です。これらの判断基準を賃貸人の側から整理してみましょう。


▼基準①建物の使用について

 賃貸人に切実な必要性があり、賃貸人に切実な必要性がなければ、「正当事由」が認められにくいといえます。

 例えば、敷地を有効利用するために建物を取り壊して中高層ビルを建築したいという敷地の再開発目的があったとしても、賃貸人に切実な必要性があるとは言えません。

 しかし、再開発計画区域に入って敷地周辺で中高層ビルへの建て替えが続いており、敷地の再開発が地域住民の総意であるとか地域的要請であるとか公益に沿うものであるなどと言うことができれば、賃貸人にとって有利な事情となります(他の判断基準とあわせれば「正当事由」が認められるかもしれないという程度です) 。

 これに対し、賃借人が同程度の住居や店舗を付近に確保することが困難であれば、賃借人の切実な必要性が認められやすくなります。とりわけ建物が営業用店舗であり、立ち退きによって賃借人が重大な経済的損失を被るといった事情があれば、賃借人にとって有利(賃貸人にとっては不利)と言えます。

 このように基準①は、建物の使用について、賃貸人と賃借人のそれぞれの必要を比較し、どちらにより切実な必要性があるのかという観点で判断することになります。

    元弁護士Y


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