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賃借物件が火災被害にあったとき①家主、隣家、上下階との損害賠償関係

更新日:2019年5月22日

 賃貸物件が火災被害にあったとき、賃貸物件の所有者はどのような請求ができるのでしょうか。

いくつかのケースを見ていきます。


▼賃借人が失火

 最も単純なケースは、賃借人が失火して賃貸目的とした部分が燃えたときです。このとき失火責任法は適用されず、賃借人に失火について過失があれば、賃借人に対して債務不履行(善管注意義務違反)に基づく損害賠償請求をすることができます。


▼賃借人の妻や従業員が失火

 つぎに、失火者が賃借人の妻や従業員であったときはどうでしょうか。妻や従業員は賃借人の履行補助者です。

 判例は、履行補助者の過失は信義則上債務者の過失と同視しますので、このケースでも、妻や従業員に過失があれば、賃借人に対して債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができます。


▼賃貸目的以外の部分の延焼

 では、賃借人ないし履行補助者が失火し、賃貸目的とした部分以外の部分(外通路や階段等の共有部分や上下左右の他の部屋など)にまで延焼したときはどうでしょうか。

 この点について確立した判例はありませんが、延焼した部分が賃貸目的部分と不可分一体の部分であれば、債務不履行に基づく損害賠償請求を認める裁判例が多数です。

 これに対して、延焼した部分が賃貸目的部分と不可分一体の部分とはいえないときは、賃貸借契約違反とはいえないことから、債務不履行責任ではなく不法行為責任を追及することになります。

 不法行為責任には失火責任法が適用されますので、賃借人ないし履行補助者に故意・重過失(故意に近い著しい注意欠如のこと)がなければ、損害賠償請求をすることはできません

 なお、賃貸目的部分と不可分一体の部分の一例として、同じ建物の上下左右の部屋はもとより、

延焼した隣接建物の所有者が賃貸人であったケースに関し、賃貸目的物件に失火すれば隣接建物にも延焼することが通常予見できたことを条件として、隣接建物についても善管義務違反に基づく損害賠償請求を認めた裁判例があります。

 この場合の損害賠償請求は債務不履行責任ですので、失火責任法は適用されず、賃借人ないし履行補助者に重過失に至らない過失があれば損害賠償請求をすることができます。


▼焼失した場合の契約解除

 賃貸物件が全焼すると、賃貸借契約の目的物がなくなることから、賃貸借契約は当然に終了し、法律的には損害賠償関係だけが残ることになります。

 判例は、家屋が火災によって滅失したかどうかは、焼失した部分の修復が通常の費用では不可能と認められるかどうかを斟酌すべきであるとの判断を示していますので、物理的な観点のみならず経済的な観点をも加味して全焼したかどうかが判断されることになります。

 これに対して、賃貸物件が一部焼失したにすぎないときは、賃貸借契約は当然には終了しません。

 しかし、判例は、過失の態様や焼損の程度が極めて軽微であるといった例外的な場合を除き、賃貸人からの無催告解除を認めています。そのため、賃貸人が賃貸借契約を解除すれば、賃借人は賃貸物件を明け渡さなければなりません。


(元弁護士Y)

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