次のテーマは『一部滅失による賃料減額』です。
改正法は、賃貸目的物の「一部」が「賃借人の責めに帰すべき事由によらずに」「滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」に使用・収益ができなくなった部分の割合に応じて賃料が当然に減額されると規定し、更には解除することも認めました。
改正法が現行民法と違う点は、大きく3点です。全て賃借人に有利になるように規定されました。
⑴賃貸人に責任がない場合
1点目の違いは、天災などの賃貸人に責任がない一部滅失等であったとしても賃料は減額されるのかどうかという点です。
この点は現行民法では解釈上の争いがありました。
しかし、改正法は「一部滅失等の原因が賃借人の責めに帰すべき事由によるものでなければよい」としています。ここで「賃借人の責めに帰すべき事由」とは賃借人に故意や過失があるときのことです。
そのため、天災などの賃貸人に責任がない一部滅失等であったとしても、賃借人の故意や過失はないことから賃料は当然に減額されることになります。
⑵使用及び収益できない場合
2点目の違いは、現行民法は「滅失」と規定しているのに対し、改正法は「滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」 と規定しているという点です。
そのため、現行民法では、ライフライン(電気・ガス・水道等)の停止が「滅失」にあたるかどうかについて解釈上の争いがありました。改正法は、賃借人の有利になる方向で立法的に解決したことになります。
⑶賃料が当然に減額
3点目の違いは、賃料が当然に減額されるとした点です。
現行民法は、賃借人の賃料減額請求権を認めただけでしたので、賃借人のほうから賃貸人に対して賃料の減額を請求しなければ賃料は減額されないままでした。
改正法は、現行民法で規定されておらず解釈上争いになっていた点について、いずれも賃借人に有利になるように立法的に解決しました。しかし、賃借人に有利に解決したと言っても、いずれも裁判実務で概ね認められていたことを条文化しただけとも言えますので、賃貸実務に与える影響は軽微といってよいでしょう。
賃貸人に責任のない天災等であったとしても、「賃貸目的物を賃借人の使用収益させる義務」を果たせない状況にあることは変わりません。
そのような状況で満額の賃料を請求することは公平の観点から違和感がありますので、賃貸経営者としても一部滅失等による賃料減額の改正はやむを得ないものとして受け止めるべきでしょう。
(元弁護士Y)
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