家を貸す側にとっては、賃借人は独身者であるほうが好ましく、高齢者は歓迎できないのが本音だと思います。
そこで、今回は、賃借人が高齢者であることを理由に賃借契約を解消することができるかどうかについて検討します。
▼高齢者からの申込は断れる?
まず、賃貸借契約の締結の時点で高齢者からの入居申し込みを断ることは自由です。なぜなら、民法の大原則の一つに「契約自由の原則」というものがあるからです。すなわち、契約をするかしないかは契約当事者の自由であり、極端なことを言えば、「顔が気に入らないから契約しない」
ということでも許
されます。
▼契約と異なる高齢者が入居?
では、賃借人が高齢者であることを隠して入居申込みをした結果として賃貸借契約の締結に至ったときはどうでしょうか。例えば、入居者が40歳の独身男性だと思って契約したところ、実際に入居したのは70歳の父親だったという替え玉のケースです。
この場合には既に賃貸借契約を締結してしまっていることから、賃貸借契約を解消するための法的根拠が必要になります。具体的には、錯誤無効と無断転貸解除です。
錯誤無効が認められるためには、
賃貸人が仮に契約締結前にその事実を知っていたとしたら契約しなかった
通常一般人であっても同じ判断をしたといえること
が必要です。
たしかに、賃借人が高齢者だと、火の不始末等の管理上の問題が発生するほか、定職についておらず賃料支払に不安が生じます。しかし、国は「高齢者の居住の安定確保に関する法律」を制定し、民間による高齢者向けの良質な住宅確保を国策としています。
そうすると、裁判所としても、賃借人が高齢者であることを理由に賃貸借契約の錯誤無効を認めることに躊躇する可能性があります(とはいえ、高齢者の入居を避けたいと考える場合、賃貸借契約書の特記事項に「賃借人は、本契約書に記載した生年月日が偽りのないものであることを確認し、契約締結後にその生年月日を偽っていたことが判明したときは本契約が催告なく直ちに解除されることを異議なく承諾する。」という一文を入れておくべきです)。
▼無断転貸の場合
つぎに、無断転貸を理由とした契約解除について検討します。
無断転貸は民法六一二条によって禁止されていますが、最高裁によって賃借人の側に有利な解釈がなされています。すなわち、賃借人の側で「賃借人の転貸借行為が賃貸人に対する背信的行為とはいえない特段の事情」を主張立証したときには賃貸借契約の解除が認められません。
ここで背信性の有無は、賃貸借の動機、賃借物の種類、利用状況の変化の有無や程度、賃借人と転借人との人的関係、賃借人と転借人の信用や資力に差異があるかどうかといった事情を総合的に考慮して判断されます。
この点、賃借物が営業用建物のときは、賃借人が造作や設備を付け加えたり、営業活動によって無形の資産を形成するなどしており、その投下資本を回収する必要性があることから、賃借人に有利な方向での判断がなされやすくなりますが、本件ではそのような事情はありませんので、原則どおり無断転貸を理由とした解除が認められる可能性が高いものと思われます。
(元弁護士Y)
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