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建物の立ち退きと「正当事由」②

 前回は、借家契約の更新拒絶や解約申入れをするには「正当事由」があることが必須であり、その判断基準には5種類のものがあることをお伝えし、基準①について説明しました。今回は、基準②から⑤の説明になります。


▼基準②「賃貸借に関する従前の経過」

 家賃の金額が適正かどうか、借家人が賃料不払いなどの債務不履行をしているかどうか、権利金や更新料の授受があったかどうかといった事情から判断されます。


▼基準③「建物の利用状況」

 借家人が当該建物を利用している頻度や賃貸借契約で定められた目的の範囲内で当該建物を利用しているかどうかといった事情から判断されます。

 ただし、借家人の管理が不十分であるだけでは足りず、賃貸人との信頼関係を害する程度に劣悪であると言えなければなりません。


▼基準④「建物の現況」

 当該建物の老朽化の程度や修繕にどの程度の費用が掛かるかといった事情から判断されます。老朽化が甚だしく建て替えの必要性が大きければ「正当事由」が認められやすくなりますが(将来の建て替えを見据えて家賃が低く設定されていた場合は賃貸人にとって更に有利になります)、老朽化の原因が賃貸人が適切な建物管理を怠ったせいであるときは賃貸人にとって厳しい判断になるでしょう。


▼基準⑤「立退料の金額」

 裁判実務では立退料は補完的機能を果たすにすぎないと解釈されています。つまり、基準①から④をある程度は満たしているものの十分とは言えないときに相応の立退料を提供することで「あわせて一本」になる場合があるという意味です。

 逆に言えば、基準①から④を全く満たさない場合には、賃貸人がどれだけ高額の立退料を提供しても「正当事由」が認められることはありません

 一方、居住用建物であれば「正当事由」が認められない場合であっても、営業用の建物であれば高額の立退料を支払うことで「正当事由」が認められる場合もあります。住居を奪うにはより強い理由が必要であると考えられているためです。


▼立退料申し出のタイミング

 立退料は、更新拒絶や解約申入れ時にする必要はありません。最高裁平成6年10月25日判決は、「立退料の申し出の時期を意図的に遅らせるなど信義に反する事情がない限り、控訴審が結審するまでに申し出ればよい」との判断を示しています。

 そのため、更新拒絶や解約申入れ時には「引越料+引越し後の新賃料と今の賃料との差額の1年分」程度の金額を目安にして借家人と交渉し、それでうまくいかなかった時点で弁護士に相談し(ただし、顧問弁護士がいるときは事前に相談してください)、弁護士に正式依頼することを含めて善後策を考えてはいかがでしょうか。

元弁護士Y

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