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手抜き工事による損害が発生した際のオーナーの責任

▼八王子の階段崩落事故

 令和3年4月、東京都八王子市で築8年の賃貸アパートの外付け階段が崩落し、58歳の女性が落下して死亡するという痛ましい事故が発生しました。

 報道によると、鉄製階段と木製踊り場を固定していた2本のエル字型金具のビスがさび木製踊り場が腐食したことが原因のようです。

 設計図では踊り場は木造ではなく鉄骨であったとか、木造にする場合に法で求められている防水加工をしていなかったとの報道もなされています。施工業者の手抜き工事が原因との見方です。


▼オーナーの責任

 オーナーが手抜き工事をさせた場合にオーナーが法的責任(刑事責任を含みます)を負うことは当然ですが、オーナーが手抜き工事を全く知らなかった(本件で言えば、踊り場が設計図どおりの鉄製だと信じていた)としたら、オーナーはどのような法的責任を負うのでしょうか。

 この場合、オーナーは踊り場が鉄製であると信じていたわけですから、オーナーには故意や過失はありません。しかし、施工業者の手抜き工事によって階段に瑕疵(土地の工作物が通常備えているべき安全な性質や状態を欠いていること)が発生し、その瑕疵によって本件事故が発生した以上、オーナーは土地工作物の所有者としての不法行為責任を負うことになります。

 一般的な不法行為責任は故意や過失があることが前提ですが、土地工作物の所有者は、たとえ無過失であったとしても土地の工作物から発生した損害を賠償する責任を負うものとされているからです。


▼オーナーの損害賠償負担

 したがって、本件のケースで言えば、本件アパートのオーナーは、事故死した58歳女性の遺族に対し、慰謝料(最低でも二千万円)や逸失利益(専業主婦でも、女性の平均賃金の逸失利益が発生し、58歳だと三千万円程度)など、少なくとも五千万円以上の損害賠償金を支払うことになります。

 もっとも、本当に悪いのは手抜き工事をした施工業者です。

 そのため、被害者に損害賠償金を支払ったオーナーは、手抜き工事をした施工業者(オーナーから工事を請け負った業者が別の業者を利用し、その者が手抜き工事をした場合は、オーナーから工事を請け負った業者は、オーナーとの関係では手抜き工事をした業者と同視できますので、両者をまとめて「施工業者等」と言うことにします)に対し、求償請求(被害者に支払った損賠賠償金をオーナーに返せという請求)をすることはできます

 しかし、この施工業者は既に破産の申立てをしたと報道されており、施工業者にオーナーが支払った損賠賠償金をまかなうだけの残余財産があるとは思えませんので、この状況ではオーナーが泣くことになります。

 さらに施工業者が破産申立てをした以上、これらの補修工事の費用はオーナーが最終的に負担することになります。


 このように手抜き工事がなされるとオーナーに莫大な損害が発生することになりますので、工事を依頼するときは、信頼のおける企業か否か、財務基盤がしっかりしているかどうかにも注意を払ったほうがよいと思われます。

 普段お付き合いのある管理会社や建築会社を窓口にすることも一つの予防策かもしれません。


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