新型コロナウイルスの感染拡大による収入減を理由にして賃借人が賃料を滞納したとき、
貸主はどのような対応が取れるでしょうか。
今回、法律的な観点からその手段を見ていきます。
▼法的手段
賃貸人がとりうる法的手段としては、次の3のステップを経る流れになります。
①賃料不払いを理由として賃貸借契約を債務不履行解除する(通常は、訴訟を提起する前に内容証明郵便で解除通知をします)
②建物明渡請求訴訟、滞納賃料の支払請求訴訟、賃料相当損害金の損害賠償請求訴訟を提起する(これらは複数の請求になりますが、通常は、1通の訴状にまとめて行います)
③勝訴判決の確定後に強制執行をする
①の債務不履行解除が認められれば、②の訴訟と③の強制執行は問題なく認められます。
ただし、③まで行うと、解決までにかなりの時間とお金がかかってしまうことから、通常は、②の訴訟の途中で裁判上の和解をし、賃借人に自分で荷物をまとめて賃貸物件から出て行ってもらうという解決を目指すことになります。
裁判上の和解をするにせよ、判決を求めるにせよ、こちらに有利な判断を得るためには、裁判官に味方になってもらわなければなりません。
そのためには、当方の主張を支える法律上の根拠が確固たるものであるかどうかが極めて重要です。
▼法律上の根拠
さて、賃貸借契約の債務不履行解除が認められるためには、単なる債務不履行の存在では足りません。当事者間の信頼関係を破壊する程度の債務不履行の存在が必要であるとするのが確立された裁判例だからです。
つまり、家賃の滞納は債務不履行に該当しますが、当事者間の信頼関係を破壊する程度の債務不履行であると言うためには、少なくとも3か月程度の家賃の滞納が必要になります。
裁判所は、3か月程度の家賃の滞納があれば、問題なく賃貸借契約の債務不履行解除を認めるのが通常でした。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は前例のない極めて特異な緊急事態であることから、これを理由とする収入減によって賃料の不払いに至ったという事情を賃借人が主張立証したとき、裁判所は信頼関係の破壊を認めない可能性があります。
▼法務省の見解
この点について、法務省民事局は、「最終的には事案ごとの判断となりますが、新型コロナウイルス感染症の影響により3か月程度の賃料不払が生じても、不払の前後の状況等を踏まえ、信頼関係は破壊されていないと判断され、オーナーによる契約解除(立ち退き請求)が認められないケースも多いと考えられます。」と述べています。
これを作成したのは民事局付き検事ですが、民事局付き検事は元裁判官(東京地裁等からの一時的な出向者)が多く、裁判所内部の勉強会での検討結果が反映されている可能性が高いと思われることから、無視できません。
そうすると、賃貸経営者としては、賃料の不払いが発生した時点で弁護士に相談し、契約解除に向けた道筋を明確に準備することが重要です。
(元弁護士)
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