賃貸物件内に残置物があるときは、賃貸借契約を解除した上で賃借人に残置物を撤去してもらう必要があります。賃借人が既に死亡しているときは相続人全員が相手方になりますが、今回は相続人が外国にいるケースと死亡したケースを見ていきます。
▼相続人が海外にいるケース
相続人が外国に居住していると、残置物の任意撤去の交渉ができませんので、裁判をして強制撤去する方法を選択せざるを得ません。
調査しても相続人の居所が不明であれば公示送達(裁判所の掲示板に掲示することで送達したことにする制度)を利用することができます。
しかし、相続人の居所が判明したときは、相続人の居所に対し、最低でも、①訴状、②判決、③差押命令の3種類の文書を送達しなければなりません(相続人が訴状を無視せず、裁判で争う意思を表明したときは、主張書面や証拠の送達が必要になります)。
日本国内であれば、送達は「特別送達」という特別の郵送方法があるため、郵便局が対応してくれます。
しかし外国への送達は「特別送達」が使えないため、①当該国の日本領事館が行う、②当該国の政府が行う、③当該国の裁判所が行うという3種類の方法で対応します。問題は、これらの送達には非常に時間がかかるという点です。
最高裁判所は、海外送達にかかる平均送達期間を公表しています。
それによると、アメリカで3~5か月、ドイツやフランスで4~8か月、中国や韓国で4~6か月、フィリピンで3~7か月、オーストラリアで4~9か月、ブラジルで14か月です。ブラジルに相続人がいると、訴状、判決、差押命令を送るだけで3年半もの時間が必要になってしまいます。
▼相続人が存在しない時
これに対し、賃借人が既に死亡しており、戸籍調査をしても相続人が存在しないときには、明渡しの裁判の被告にする人がこのままでは存在しないため、裁判所に相続財産管理人を選任してもらい、相続財産管理人を被告にして裁判をすることになります。
ただし、裁判所は弁護士の中から相続財産管理人を選任するため、裁判所が相続財産管理人に支払う報酬相当額を事前に裁判所に納付することを求められます(この「予納金」を納付しなければ、裁判所は相続財産管理人を選任しません)。
予納金の金額は、実務的には賃貸人の代理人弁護士と裁判所が事前協議して決まりますが、最低でも50万円は必要であり、100万円以上の金額を求められるときもあります。
このように、賃借人が残置物を残していなくなると、とてつもなく大変な事態となります。そのため、いざというときに備えて事前の対策をしておく必要があります。
次回(最終回)は、賃貸経営者が事前に講じておくべき対策についてご説明します。
元弁護士Y
コメント