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賃貸物件が火災被害にあったとき②

 前回に引き続き、賃貸物件で火災が起きた場合の損害賠償についてお伝えします。


▼契約関係が損害賠償に影響

 賃貸物件が火災被害にあったとき、失火者との間に契約関係があり、失火について契約違反(債務不履行責任)を問える立場にある被害者は、失火者に故意または過失があれば、失火者に対して損害賠償請求をすることができます。

 これに対し、失火者との間に契約関係がない被害者は不法行為責任を問うことしかできませんが、不法行為責任には失火責任法が適用され、単なる過失は免責されることから、失火者に故意または重過失がなければ損害賠償請求をすることができません。

 具体例で考えてみましょう。例えば、消火活動によって水浸しになったり破壊されたりした物品の所有者は、誰に対してどのような請求ができるのでしょうか。


▼失火者の責任

 まず、失火者に対する責任ですが、失火者と賃貸借契約を締結している立場にある家主は、失火者に失火についての故意または過失があれば、消火活動による損害についても失火者に対して損害賠償請求をすることができます。

 しかし、隣室や上下階の居住者は、失火者とは契約関係にないため、失火者に重過失がない限り、失火者に対して損害賠償請求をすることはできません。


▼消防職員・家主の責任

 失火者に対する損害賠償請求ができない隣室や上下階の居住者としては、消防職員ないし家主に対して損害賠償請求をすることを検討するかもしれません。このうち消防職員に対する損害賠償請求(正確には、市町村に対する国家賠償請求)については、失火責任法によって単なる過失があ

ったとしても免責されますので、消防職員に消火活動について故意または重過失がない限り、消防職員に対して損害賠償請求をすることはできません。

 また、家主に対しても、賃貸物件に構造上の欠陥等があって、その欠陥等のせいで損害が発生したり拡大したりしたのでない限り、賃貸人には失火についての過失が認められないことから、損害賠償請求をすることはできません。

 結局のところ、賃貸物件の入居者は、誰からも損害賠償を受けることができず泣き寝入りをしなければならないことになります。

 また、賃貸人としても、失火者に対して賃貸借契約違反に基づく損害賠償請求をすることができますが、現実問題として、失火者に弁償できるほどの資力がなければ、被害弁償を受けることができません。


 そこで、賃貸借契約を締結する際に、入居の条件として借家人賠償責任保険・個人賠償責任保険への加入と契約書のコピーの提出を義務付けておくべきです。

 これらの保険は単体では加入できないことが多いため、通常は入居者には火災保険を契約してもらい、火災保険のオプション契約として借家人賠償責任保険(賃貸人に対する被害弁償を目的とするもの)と個人賠償責任保険(他の入居者に対する被害弁償を目的とするもの)にも加入してもらうことになるでしょう。


(元弁護士Y)



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