今回は、賃借人が家賃を滞納し続け、保証人による自主的な支払いがなされない場
合の法的対処方法についてです。
このとき賃貸人の頭に真っ先に浮かぶことは、「家賃を滞納している賃借人を早急に退
去させ、家賃を払ってくれる人に入居してほしい」ということでしょう。しかし、賃借人を退去させることは容易なことではありません。
▼債務不履行解除
まず、家賃を滞納している賃借人を退去させるためには、賃貸借契約を債務不履行解除する必要があります。なぜなら、賃借人は賃貸借契約に基づいて賃借物件を合法的に占有していることから、賃貸借契約を解除してその占有権原を奪い、賃借人を不法占拠者にしなければならないからです。
しかし、裁判所は家賃滞納が1回だけでは賃貸借契約の解除を認めてはくれません。一般に3か月以上の家賃の滞納が必要であるとされています。
▼家賃滞納時の法的対処法
家賃滞納時の法的対処の流れは、概ね次のようになります。
①3か月以上の家賃滞納
②1週間ないし10日間の期限を区切って滞納家賃を一括払いするように求め、支払いがなされないときは賃貸借契約を解除する意思表示をする旨を記載した内容証明郵便を送付する(なお、内容証明郵便の受領拒絶に備え、配達証明が得られるレターパックライトで同じ内容の手紙を同時に送付しておくとよい)
③建物退去及び退去日までの賃料相当損害金請求訴訟を提起する
④裁判上の和解ないし判決 ⑤自主的な明渡がなされないときは強制執行を行う
ここで重要なことは、②の内容証明郵便の送付によって賃貸借契約を解除して賃借人を不法
占拠者にしたとしても、勝手に鍵を交換して賃借人を締め出したり、合鍵を使って侵入して賃借人の家財を撤去したりしてはならないということです。仮に賃貸人がこのような行為に出ると、賃貸人は賃借人に対する民事上の損害賠償責任を負うほか、住居侵入罪や窃盗罪の刑事罰を受けるリスクがあります。
また、賃借人が行方不明の場合には、内容証明郵便や訴状・判決等を賃借人に郵送することができません(これらは受取人の受領印が必要な形で郵送されるため、受取人不在で戻ってきてしまいます)。
そのため、賃借人の住民票を確認し(賃貸人は債権者としての資格で家賃を滞納している賃借人の住民票の写しの交付を受けることができます)、住民票に記載されている最後の住所地に賃借人が住んでいないときは、②の内容証明郵便を送ることができませんので、いきなり③の訴状を提出し、訴状の中で賃貸借契約を解除する旨を明記することになります。
裁判所は、このような場合、訴状や呼出状を公示送達し(公示送達とは、裁判所の掲示板に張り出す形で被告に書面を送ったことにする制度です)、大抵のケースでは被告欠席による原告勝訴の判決が言い渡されることになります。
しかし、家賃滞納時に判決が出てしまうと、賃貸人にとっては非常に残念なことになります。(次回に続きます)
(元弁護士Y)
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