新型コロナウィルスの感染拡大が続いている現在、入居者が感染したり、新型インフルエンザ等対策措置法(「特措法」)に基づく施設の使用停止要請や指示がなされたりすることで、賃貸物件の全部又は一部が利用できなくなる事態が発生する可能性があります。
賃貸人には賃貸物件を使用収益させなければならない義務があります。賃貸物件の全部又は一部の利用ができなくなると、賃貸人の貸す債務の全部又は一部の債務不履行となるため、賃借人に対する損害賠償責任が発生するリスクがあります。
▼入居者が感染した場合
入居者が感染したことを知った賃貸人は、共用部分を速やかに閉鎖するなどした上で消毒等の感染拡大防止措置を講じなければなりません。
なぜなら、賃貸人は、貸す債務に付随するものとして「賃貸物件の衛生環境を維持管理する義務」を負うものと解釈されているからです。
賃貸人がこれを怠って他の入居者に感染拡大等の被害が発生したときは、賃貸人は、他の入居者に対し、債務不履行責任を負うことになります(なお、現実問題として賃貸人が入居者が感染した事実を知ることは困難であると思われますが、噂を聞いた程度であっても可能な限りの調査をしておくべきです)。
▼他の入居者に通知すべきか?
この問題は感染した入居者のプライバシーにも配慮する必要があるため、簡単には結論が出ません。
しかし、賃貸人に消毒等の感染拡大防止措置を速やかに講じなければならない義務があるところ、賃貸人がその義務を果たすためには他の入居者の利用を一時的に制限しなければなりません。
そのため、賃貸人としては、感染した入居者の特定につながる情報提供は極力避けつつ、消毒等の感染拡大防止措置に伴う他の入居者の利用権の一時的な制限を正当化するために必要な限度での説明を行うことは許されるものと考えます(なお、他の入居者から「誰が感染したのか」と聞かれても、賃貸人は回答すべきではありません)。
▼まとめ
このように、入居者に感染者が出たとき、賃貸人は、感染拡大防止措置を完了するまでの間、賃貸物件の全部又は一部を閉鎖しなければなりません。
賃貸人のこの措置は他の入居者の利用権の全部又は一部を制限することになるため、他の入居者から貸す債務の債務不履行を理由とする損害賠償請求を受ける可能性があります。
具体的には、利用できなかった部分や期間に相当する賃料や賃貸物件が商業施設であるときには営業補償などが想定されます。
賃貸借契約書に規定があるときはそれによることになります。これに対し、賃貸借契約書に規定がないときは、民法等の解釈によることになります。
(元弁護士Y)
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