民法は、令和2年4月1日に改正法が施行されました。そのため、賃貸借契約の締結日が令和2年3月31日までは改正前民法が適用されますが、4月1日以降は改正後民法が適用されることになります。
▼民法に基づく判断
<民法改正後>
改正後民法611条1項は、賃貸物件の使用収益ができなくなったとき、それが賃借人のせい(法律用語で「帰責事由」といいます)でなければ賃料は当然に減額されると規定しています。
感染拡大防止措置を講じるための使用収益の制限は賃借人のせいではないため、賃貸借契約の締結日が令和2年4月1日以降のときは、賃料は当然に減額されます。
<民法改正前>
これに対し、賃貸借契約の締結日が令和2年3月31日までのときは改正前民法が適用されますが、改正前民法611条1項は賃料減額請求を「建物の一部滅失」の場合に限定していて、使用収益ができない場合を含めていないことから、改正前民法611条1項によって解決することはできません。
しかし、改正前民法536条1項は「債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」と規定しています。使用収益の反対給付は賃料請求になるため、賃借人が使用収益することができなくなった限度に応じて賃貸人の賃料請求権もまた消滅することになります。
▼商業施設の場合
つぎに、賃貸物件が商業施設であったとき、賃借人に営業補償する義務があるかどうかですが、通常は営業補償をする義務はないとの判断がなされるものと思われます。
なぜなら、感染拡大防止措置を講じるために必要な限度での賃貸物件の閉鎖は、賃貸人が「賃貸物件の衛生環境を維持管理する義務」を果たすためにどうしても必要なことですから、賃貸人のせいとは言えないからです。
▼特措法における判断
前述の結論は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づくケースでも同じであると考えられます。ただし、特措法は、緊急事態宣言の指定区域内において、法的義務のない「要請」と法的義務がある「指示」をすることができる旨を規定しているところ、法的義務のない「要請」に応じて賃貸物件を閉鎖したときであっても賃貸人は免責されるのかが問題になります。
この点は最終的には裁判所の判断を待つしかありませんが、法的義務がない協力要請であったとしても、その時点の社会状況の下では拒否することはできない(事実上の強制力を伴うもの)と言えれば、賃貸人は免責されるものと考えられます。
▼対応策
後日の紛争を防止するため、賃借人と事前に十分に協議し、「休業要請が解除されるまでの間、賃貸人は賃料を請求せず、賃借人は営業補償を請求しない」という合意ができるのであればしておくべきです。
なお、オフィスビルは特措法の休業要請の対象外ですし、特措法の外出自粛要請についても職場への出勤は対象外とされていることから、オフィスビルの閉鎖は行うべきではありません。
(元弁護士Y)
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