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賃貸物件で新型コロナ感染者が出た場合の対処③

 賃借人に新型コロナの感染者が出たとき、賃貸人は消毒・清掃等の感染拡大防止措置を行い、そのために他の賃借人に利用制限を求めれば、他の賃借人から賃料の減額請求を受ける可能性もあります。

 賃貸人にとって、感染者のせいで余計な費用と手間がかかることになります。そこで、感染した賃借人に対し、何らかの請求ができないかと考えるかもしれません。

結論を先に述べると、賃貸人は泣き寝入りするしかないのですが、法律の観点で検討してみます。


▼強制退去は可能か?

 まず、感染した賃借人を強制退去させることができるかどうかを考えてみます。

賃借人を強制退去させるには、賃貸借契約の債務不履行解除が認められるほどの違法行為を賃借人がしたという事実を賃貸人の側で主張立証しなければなりません。

 しかし、通常は新型コロナに感染することについて賃借人には責められるべき事情がないことから、新型コロナに感染したということだけでは賃貸借契約の債務不履行が認められることはないでしょう。

 また、現状では新型コロナに感染した患者は、保健所の指示に基づいてマンションないしアパートの自室内で自宅療養しているため、賃借人に対し、賃貸物件からの退去を求めることは認められません。

 ただし、賃借人が新型コロナに感染したにもかかわらず、通院等の正当な理由がないのに自室を出て共用部分をうろつく等の危険行為をしているときは、賃貸人は、他の賃借人の健康と安全を守るため、危険行為をしている賃借人に対し、自室内にとどまることや賃貸物件からの退去を求めることができるものと思われます。


 賃借人が任意退去に応じないときは裁判所の仮処分を求めることになりますが、前例のないことであり裁判官も判断に迷うでしょうから、発令までに「発症日から10日間」という宿泊療養の解除基準を過ぎてしまい、仮処分の申立ては必要性を欠くものとして却下されることになるでしょう。

 そうなると、回復した賃借人に対し、事後的に賃貸借契約の解除を通告し、裁判所に対して強制退去を求める訴えを起こすことしかできないことになります。


▼損害賠償請求は可能か?

 つぎに、感染した賃借人に対し、賃貸人が被った金銭的損害の賠償請求をすることができるかどうかですが、通常は新型コロナに感染することについて賃貸人に責められるべき事情が認められませんので、損害賠償請求も否定されます。

 ただし、賃借人が危険行為をすることで、他の賃借人が転居して空室が出るなどしたときは、用法遵守義務違反を理由とした賃貸借契約の解除や損害賠償請求が認められる可能性があります

 なお、賃貸人には賃貸物件を住居として円満な状態で使用させる義務があるため、危険行為をしている賃借人に適切な対応をしなければ、他の賃借人から賃貸人が債務不履行責任を問われ、転居費用等の損害賠償請求を受けるリスクがありますので、注意が必要です。


(元弁護士Y)


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