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『改正民法』令和2年4月1日施行 ②保証人の責任制限

 前月号に続き、令和2年4月1日施行される改正民法について解説します。

▼保証人の責任制限(死亡による終了)

  • 現行民法

現行民法は連帯保証人は賃借人と同等の責任を負担することを当然の前提としているため、賃借人が死亡しても、連帯保証人が死亡しても、連帯保証契約には影響しません。

 つまり、賃借人が死亡したときは賃貸借契約は賃借人の相続人が引き継ぐことになり、連帯保証人は新賃借人となった相続人の債務を連帯保証することになります。

 また、連帯保証人が死亡しても、連帯保証人の責任は連帯保証人の相続人が相続分に応じて分担して負担することになります。これを賃貸経営者の視点で見ると、賃借人が死亡しても連帯保証人が死亡しても、それぞれの相続人が義務を相続することになるため、何も困ることはありません。


▼改正民法

 これに対して、改正法は「個人の第三者保証人は認めるべきではない」という価値判断に立つため、賃借人と連帯保証人のどちらかが死亡した時点で連帯保証債務の元本を確定することとしました。

 この改正は、賃貸経営者にとって非常にダメージが大きいものです。

 賃借人は賃料支払義務と原状回復義務を負担し、連帯保証人はそれを連帯保証します。連帯保証人は通常は1人しかいませんので、連帯保証人が死亡した瞬間に連帯保証人のいない賃貸借契約になってしまうことになります。

 賃貸経営者にとってみれば、しっかりとした担保をとって金を貸していたところ、いきなり無担保になってしまったのと同じ意味を持ちます。連帯保証人が死亡した後に発生した滞納賃料や原状回

復費用について賃借人に支払能力がなければ、賃貸人が泣くしかありません。賃借人が新しい連帯保証人を見つけてくれなければ、ずっと無保証のままです。


 同じ問題は賃借人が死亡したときにも発生します。賃貸借契約において賃借人の死亡は終了要件ではないため、賃借人の死亡後はその相続人が賃貸借契約を相続することになります。つまり、無保証のまま賃貸借契約が存続することになるわけです。

 賃借人の相続人に支払能力があれば問題ありませんが、賃借人の相続人に支払能力がないときは大変です。


 しかし、もっと大変なのは賃借人の全ての相続人が相続放棄をしたときです。

 孤独死している賃借人を発見したケースを想像してみてください。死体は警察が運び去ってくれますが、腐敗した死体が放置されていた部屋はひどい状態です。

 賃借人の全ての相続人が相続放棄をしたとしても、連帯保証人がいれば、明渡しまでの賃料に相当する損害金が日々増え続けても、連帯保証人が頑張ってくれるでしょうし、連帯保証人に支払能力がある限り賃貸経営者は金銭的な負担をしなくて済みます。

 しかし、改正法では賃借人が死亡すると連帯保証債務の元本が確定するため、連帯保証人が頑

張るモチベーションがなくなってしまいます。

 賃貸人は、賃借人の相続人を探し出して事情を説明して明渡しの協力を求めることになりますが、数ヶ月かかって誰の協力も得られず全員に相続放棄され、荷物がそのままで警察の現場検証の痕跡がある部屋が残されるという悲惨な状態に陥るリスクがあります。

 この状態を何とかするため、相続財産管理人の選任を申し立てて、相続財産管理人に対して明渡しの裁判をすると、百万円以上の費用がかかることになります。

 賃貸経営者としては、このような事態は何としてでも避けたいところです。

連帯保証人の死亡は複数の連帯保証人を求めることで回避することができますが、賃借人の死亡については、孤独死しそうな人との契約を極力避ける程度の方法しか考えられません。

 なぜなら、賃借人の死亡による連帯保証債務の元本確定は、改正法の価値判断(個人の第三者保証人は認めるべきではない)に基づくものであるため、契約によって排除することができないからです。

 つまり、賃貸借契約書の特約欄に「連帯保証人の責任は、民法の規定にかかわらず、借主又は連帯保証人が死亡したときでも確定せず、連帯保証人又はその相続人が責任を負う。」という一文を入れたとしても、その特約は民法に違反するものとして無効になります。


▼保証人の責任制限(財務情報の情報提供)

 改正法は、賃貸借契約が事業目的のときは、賃借人は、保証人に対して、財務情報の情報提供をしなければならないものとしています(あくまでも情報提供義務であって説明義務ではありません)。

 賃借人がこの義務を怠ったことを賃貸人が知っていたり、あるいは知ることができたときは、保証人は賃貸借契約を取り消すことができます(賃貸人の側からすると、保証人のいない賃貸借契約が残ることになってしまいます)。

 確かに、会社が事務所や店舗を借りるときに連帯保証人を頼むケースであれば、情報提供義務は理解できます。

 なぜなら、連帯保証人にとって会社が賃料や原状回復費用を支払ってくれるかどうかは重大な関心事といえるからです。


しかし、実務で問題視されているのは社宅契約についてです。

 社宅契約では、通常、法人が賃借人となり、実際に社宅に住む従業員が連帯保証人となります。

このとき勤務先は従業員に対して財務情報を開示しなければならないとすると、雇用主が個人事業主や非上場企業など財務情報を公開していないところであればかなりの抵抗感があるでしょう。


▼保証人への財務情報の提供の回避策

 改正法は、社宅契約についての除外規定を設けていないことから、賃貸経営者としては、社宅契約で実際に社宅に住む従業員が連帯保証人になるときであっても、雇用主による財務情報の情報提供が必要です。

 そのことを前提として、必要十分な情報提供がなされたことの確認を求めなければなりません(これを怠ると、連帯保証契約が取り消され、連帯保証人がいなくなるリスクがあります)。

 ただし、連帯保証人が法人のときはこの規定の対象外になります。そのため、従業員に対して事務情報の開示をしたくない雇用主は、保証会社をつける等の対応をすることになるでしょう。 


(元弁護士Y)

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