前号に続き、令和2年4月1日に施行される改正民法について解説します。
▼敷金の返還時期・範囲の明確化
現行民法は敷金の返還時期や返還範囲については明記していませんでした。そのため、これらは裁判所の裁判例の積み重ねによってルール化されることになりました。
改正法の敷金に関する部分は既存のルールを明文化したものにすぎないことから、保証人の責任制限のように実務を大きく変更するものではありません。
改正法は、これまで保証金・権利金といった様々な名称で交付されるお金を整理し、賃料等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付した金銭であれば名称のいかんを問わず「敷金」であるとしました。
つまり、保証金でも権利金でもその他の名称でも、賃料を担保する目的のお金であれば全て「敷金」として扱われることになります。
そして、改正法は、「敷金」の返還時期については賃貸借契約が終了して目的物が返還された時点とし、「敷金」の返還範囲については未払賃料や原状回復費用等を控除した残額であると定めました。
また、賃借人が賃貸人の承諾を得て賃借人を第三者に変更するときは、賃貸人は、敷金から賃借人の債務を差し引き、その残額を賃借人に返還しなければならない旨も明記されました。
それに伴い、賃貸人は、新賃借人に対し、新たに敷金の提供を求める必要があります。
▼原状回復費用の明確化
改正法は、賃借人の原状回復義務についても、通常損耗や経年劣化は原状回復義務に含まれないことを明文化しました。
この点についても、敷金の返還時期・範囲と同様に、これまでの裁判例で蓄積されたルールを明確にしたものにすぎません。
通常損耗や経年劣化が原状回復義務に含まれないという意味は、普通の利用で目的物が痛んだとしても賃料の範囲内でまかなうべきである(賃料を超えて賃借人に請求することはできない)ということです。
▽賃借人に請求できないもの
•家具を設置したことによる床やカーペットのへこみ
•テレビや冷蔵庫の背面の壁の黒ずみ
•紛失をしたことがない鍵の交換
これらは原状回復義務の範囲に含まれ、その費用は賃貸人が退去時までに受領した賃料収入からまかなうことになります。
▽賃借人に請求できるもの
•引越し作業で付いた傷
•ペットがつけた柱の傷や悪臭
•タバコのヤニやにおい
これらは、通常損耗や経年劣化に含まれず、賃貸人は賃借人に対して費用を請求することができます。
なお、この規定は保証人の責任を制限する規定とは異なり、賃貸借契約で特約を設ければ特約が優先します。
最高裁判所平成17年12月16日判決は、通常損耗の補修費を賃借人の負担とすることについての明確な合意があればその合意は有効であると判断していますので、そのような事実関係が存在するのであれば、改正法施行後であっても通常損耗の補修費を賃借人に負担させることも許されるでしょう。
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