▼賃料の支払状況の回答義務
改正法は、賃貸人に対し、家賃の支払状況について連帯保証人から照会を受けたときは遅滞なく回答する義務を新設しました。
連帯保証人にとって、自身の連帯保証債務の対象である家賃がきちんと支払われているかどうかは重大な関心事です。
そのため、仮に家賃が滞納されていたり、遅れがちであったりしたときは、連帯保証人自ら賃借人と連絡を取り、家賃を滞納しないように働きかけたいと思うことでしょう。
賃貸人がこの回答義務に違反したときにどのような法律効果が発生することになるかははっきりとしません。
しかし、賃貸人がこの義務を怠り、連帯保証人に対して適切な回答をしないときは、賃貸人が連帯保証人に対して支払請求をしたときに信義則等を根拠として減額請求を受けるリスクがあります。
つまり、「賃貸人が連帯保証人から照会を受けた時点で速やかに適切な回答をしていたならば連帯保証人から賃借人に対して家賃を滞りなく支払うように働きかける等の対策を講じることができ、これほどの家賃が滞納することはなかったはずだから、滞納額のうち●円は支払わない(●円を超える滞納額は賃貸人の違法な回答拒否行為によって拡大したものである)」という実に法的に面倒な反論を受けるリスクが発生します。
したがって、賃貸人としては、連帯保証人から照会を受けたときは速やかに回答すべきです。
また、個人情報保護との関係が気になるようであれば、あらかじめ賃貸借契約書の中に、「賃借人は、賃貸人が連帯保証人から家賃の支払状況について照会を受けたときは、賃貸人が把握する全ての情報を提供することにあらかじめ包括的に同意し、個別の同意を要しない。」という一文を入れておけばよいでしょう(賃貸借契約書に明記しておけば、後で法律を知らない賃借人から文
句を言われる事態を回避することができます)。
▼大きな改正点のまとめ
これまで3号連続で民法の大きな改正点と賃貸経営に与える影響について説明してきました。
改正法は「個人の第三者保証人は認めるべきではない」という価値判断に立ち、個人の保証人の責任を大幅に制限しています。
そのため、この規制を乗り越えるためには、十分な敷金を預かったり、個人の連帯保証人ではなく保証会社をつける等の対策が必要です。
しかし、賃借人の側からすれば、多額の敷金や保証会社を求められることはコスト増になりますので、そのような賃貸物件は回避しようと考えるかもしれません。
賃貸経営者にとってのベストな方法が何かについては、これからの実際の運用を通じて試行錯誤しながら探求することになるものと思われます。
次回最終回は、大きな改正点ではないものの、「賃借人による修繕」と「一部滅失による賃料減額家賃の減額」を解説します。
元弁護士Y
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