今回は、税務調査に対する注意点についてお伝えします。
▼業務委託で追徴課税の対象に?
個人の不動産オーナーが不動産賃貸業を法人化するときの方法の一つに、本人や親族が不動産管理会社を設立し、その会社に管理料を支払うというものがあります。
メリットは、
管理料を個人の不動産所得の必要経費にできること
賃貸収入を法人の所得とすることで個人より低い税率を適用できること
法人から役員報酬を支給することもできること
等です。個人の賃貸収入が多いほど高い節税効果が期待できます。
しかし節税のために高額な管理料を法人に支払うと、税務調査のチェックも厳しくなります。税務署が見るのは、ずばり「本当に管理業務をやっていますか?」ということです。
「やっていない」と判断されれば、管理料は個人の必要経費になりません。それによって追加の所得税や加算税等が発生します。
では、税務者は何をもってその判断をするのでしょうか。過去の国税不服審判所の裁決事例を見ると、税務署が見るポイントの一つは、他の管理会社とも契約していないか、ということです。賃貸物件の管理は大変ですので、部分的に別の管理会社を入れることもありますが、中には、その管理会社しか業務をしていないこともあります。調査の結果、管理業務をしていないとわかれば、税務署は個人に更正処分(追加の税金を課す処分)等を行います。
ただし、他の管理会社とも契約しているからといって、管理料が経費にならないわけではありません。国税不服審判所では、税務署の処分を不服として、税務署と納税者が争いますが、裁決では納税者の主張どおり管理料を必要経費として認めることもあります。
▼過去の裁決事例を見てみよう!
▽必要経費として認められた事例
<状況>
オーナーを代表とする管理会社Aを設立し、管理業務を委託。別会社Bにも管理業務を委託している。
<判断のポイント>
A社が賃貸物件の消防・防災設備の点検、給湯設備の修理や取替工事の発注(以下「点検等の業務」)を行っていたことが発注先業者の請求書等から認められること
A社役員の業務日誌(ノート)の内容から、同社が点検等の業務のために、発注先業者からの連絡を受け付け、対応していたことが認められること
他の管理会社の管理業務の範囲に点検等の業務が含まれていないこと
(参考:平成25年3月4日裁決)
▽必要経費にならなかった事例
<状況>
別会社Bに賃貸物件を一括借上げさせ、管理業務を委託。さらに自身を代表とするA社にも管理業務を委託した。
<判断のポイント>
A社が管理業務を行った記録がない等、A社が業務を行ったことを客観的に認識できる事実がないこと
A社とB社の管理業務が事実上同一のものと認められ、A社に業務を委託する必要性が認められないこと
賃貸物件の敷地入り口の看板にA社の連絡先はなく、転借人からの問い合わせ窓口はB社であること
(参考:平成18年6月13日裁決より)
管理業務を行ったことがわかる記録があるか、他の管理会社の契約内容と照合して必要性があるか等が重要といえます。税務調査に備えるには、まず
記録を残す
契約内容を見直す
等から始めましょう。
※事例はあくまで個別案件ごとの判断です。似た事例でも判断が変わる可能性があります。
※オーナーや親族が設立する同族会社は「同族会社の行為計算否認」にも注意する必要があります。
一級FP技能士 石田夏
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