前回は、家賃滞納時に判決(建物退去及び賃料相当損害金請求訴訟)が出てしまうと、時間(一年から一年半)とお金(百万円から百五十万円+退去させるまでの賃料相当額)がかかってしまうということをお伝えしました。
では、賃貸人にとって最善の手段は何かですが、答えは裁判所で「和解」をすることです。次にその内容を見ていきます。
▼事例「家賃10万円、4ヶ月滞納」の提訴
賃借人がひと月10万円の家賃を3か月滞納した時点で内容証明郵便を出して賃貸借契約を解除し、家賃を4か月滞納した時点で提訴したケースで考えてみましょう。
このケースでは、提訴後も1ヶ月10万円ずつ賃料相当損害金(既に賃貸借契約を解除していることから、賃料ではなく賃料相当損害金となります)が発生します。
通常、民事裁判の期日は1か月に1回のペースで開かれますので、裁判期日が開かれるたびに賃料相当損害金は10万円ずつ増えていくことになります。
そのため、仮に一年後に判決になれば、裁判所は、賃借人に対し、建物退去とともに30万円の未払賃料と130万円の賃料相当損害金の支払いを命じることになりますが、賃借人に支払能力がない限り、判決は画餅となり、支払いがなされないまま10年が経過すれば、再訴しない限り、時効消滅してしまいます。
▼発想の転換による解決策
そこで、発想を転換する必要があります。具体的には、既に発生した滞納家賃は回収できないものと諦めて、今後発生する不利益をできる限り減らす方向で対策を考えます。
相当期間の滞納家賃の回収は困難です(対策としては、賃貸借契約時に敷金を多めに預かっておくとか、身元のしっかりした連帯保証人を確保しておくことや、賃借人の信用調査をしっかりしておくなど、賃貸借契約を締結する前の段階で準備しておくべきです)。
賃借人の立退きが遅れれば遅れるほど、本来であればその物件を他の人に貸すことで得られるはずだった1か月10万円の賃料が得られないことになりますから、家賃滞納後に考えるべきことは、「賃借人に1日でも早く立ち退いてもらい、別の人に1日でも早く貸して利益を上げる」ということです。
▼和解による解決
そうすると、こちらの打つ手は、「これまでの滞納家賃を全額免除する代わりに1か月以内に退去する」という和解を結ぶことしかありません。
もちろん、賃借人が約束を破って退去しなかったときのために、滞納家賃全額の支払義務を14・6%の遅延損害金つきで認めさせた上で、約束の日までに退去しなかったときはその全額を直ちに支払うという内容にしておくべきでしょう。
こうすることで、賃借人は「約束を守ったほうが得だ」と思うでしょうから、約束通りの退去が実現する可能性が高まります。また、賃借人に引越費用がないのであれば、悔しい気持ちはぐっと飲み込んで、早期退去の実現を最優先にするため、10万円程度であれば出してあげた方が得策です。
裁判所で和解をすると、和解調書には判決と同じ効力がありますので、賃借人が約束を破った時は和解調書に基づいて強制執行することができますので、安心です。
(元弁護士Y)
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