令和4年4月19日、とある相続時の不動産評価をめぐって、最高裁判所は、極めて重要な判決を言い渡しました。非常に興味深いので事例としてお伝えします。
▼状況の概要
Aさんは94歳で死亡した。相続人は5人(妻・子・孫)
Aさんは、死亡する3年前、近い将来に発生することが予想される相続税の減免を期待して節税対策を行った。
Aさんが行った節税対策の内容は、13億9千万円で不動産を購入し、その際、銀行から10億超の借入れをするというものであった。
Aさんの死亡後に提出された相続税申告書では、本件不動産の価格は路線価で計算されており、その金額は3億3,370万円であった。
税務署長が不動産鑑定士に本件不動産の価格を算出させたところ、本件不動産の鑑定評価額は12億7千万円であった。
税務署長が路線価ではなく鑑定評価額に基づいて相続税を再計算したところ、相続財産は3千万円から8億9千万円、納付すべき相続税は0円から2億4千万円に増えた。
Aさんの相続人は、これを不服として国を訴えた。
▼最高裁判所の判決
これに対する最高裁判所の判決内容は、次のとおりです。
相続税法22条は、相続財産の価額は「取得時の時価」(当該財産の客観的な交換価値)であると規定する。
国税庁長官通達は、相続税法22条の「取得時の時価」について、原則として路線価で計算するものとし、路線価で計算することが著しく不適当と認められる場合には国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定める。
国税庁長官通達は、国税庁から税務署に向けられた内部基準にすぎず、国民に対して直接の法的効力を有さないから、相続税法22条の「取得時の時価」を路線価と解釈することはできない。
とはいえ、相続税の申告実務において路線価が「取得時の時価」として画一的に扱われているという実情を踏まえると、合理的な理由がない限り、路線価で計算しなければ租税法上の一般原則としての平等原則に反し、違法となる。
路線価により画一的な処理を行うことが実質的な租税負担の公平に反すると言うべき事情がある場合には、合理的な理由があると言え、路線価で計算しなくても違法とならない。
本件では、路線価(3億3千万円)と鑑定評価額(12億7千万円)との間に大きな乖離があるものの、これは⑤の事情には該当しない。
しかし、路線価で計算すると、相続税は2億4千万円から0円となり、著しく軽減されることになる。Aさんとその相続人は、近い将来に発生することが予想される相続税が減免させることを期待して節税対策を行ったものであるが、これを許せば、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることができない他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせることになり、実質的な租税負担の公平に反するから、⑤の事情に該当する。
本件不動産は2つあり、1つはAさんの死亡の3年前に5億5千万円で購入され、Aさんの死亡8か月後に5億1千5百万円で売却されています。ちなみに、路線価は1億3千万円でした。
あまりに露骨な節税対策であり、何事もやり過ぎてはいけないという教訓を得たと言えます。
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