貸し駐車場内で事故が発生したとき、貸主は法的責任を負うのでしょうか。今回はそんな疑問にお答えします。
▼契約いかんで責任が変わる
例えば、駐車した車両が盗まれた、当て逃げされた、車両荒らしにあったとして借主から損害賠償請求をされた場合に裁判所はそれを認めるのかが問題となります。
結論から言うと、駐車契約の内容によります。自動車を預かったと言えれば寄託契約となるのに対し、駐車場所を貸しただけであれば賃貸借契約となります。両者の違いは、貸主が善管注意義務を負うかどうかです。
寄託契約が成立すると、受寄者(目的物を預かった人のこと)は預かった物(本件では自動車)を「保管」しなければなりません。「保管」とは、目的物を保持して、その滅失・毀損を防止する措置を講じることを言います。
預かった車が盗まれたり、傷ついたり、車上荒らしにあったりしたとき、借主(寄託契約では「受託者」)としては、貸主(寄託契約では「受寄者」)が保管義務に違反したとして、損害賠償請求を検討することになります。
また受寄者の保管義務の程度は無償なのか有償なのかによって異なります。無償であれば自己の財産に対するものと同一の注意義務で足りますが、有償であれば善良なる管理者の注意義務(「善管注意義務」)が求められます。通常の駐車契約は賃料をもらっており有償であるため、オーナーの側で「善管注意義務を尽くしたとしても事故を防ぐことができなかった」旨の主張立証に成功しなければ、損害賠償請求が認められてしまうことになります。
これに対し、単に駐車場所を貸しただけであれば、貸主は車の保管義務を負いません。従って、駐車契約が寄託契約なのか賃貸借契約なのかが重要といえます。
▼ポイントは自動車の占有
ここでのポイントは「自動車の占有」であると言われています。
決定的な要素とは言えないものの、一般的には自動車の鍵を預かると「自動車の占有」が
移転したと評価されやすくなり、駐車契約が寄託契約であると認められる傾向にあります。貸し駐車場の中には、駐車場の側で自動車を移動させることを前提として自動車の鍵を預かるところがありますが、非常にリスキーであると考えるべきです(一例:大阪高等裁判所平成12年9月28日判決) 。
なお、自動車の鍵を預からなければ安心かと言えば、必ずしもそうではありません。例えば、大阪地方裁判所昭和53年11月17日判決は、自動車の出入りが自由で管理人がおらず自動車の鍵も預からないモータープールに駐車中の自動車が盗難されたケースについて、駐車契約書に保管責任が記載されていたことを理由としてモータープール側の保管責任を認めました。
▼対応策
以上から、駐車契約書に「駐車場所を貸すだけで保管責任は発生しない。盗難や接触事故等が発生しても自己責任である」と明記した上で、その旨を記載した看板等を駐車場内に設置して万全を期し、契約書の記載内容と矛盾する運用、例えば鍵を預ったりはしないことが重要であると言えます。
元弁護士Y
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