令和6年から、相続時精算課税にも、年110万円の基礎控除が新設されます。暦年課税よりも有利に贈与ができるとされる見方が広がる一方で、不動産オーナーの相続税対策に利用する場合は、注意点があります。
▼相続時精算課税とは
相続時精算課税とは、累計2500万円までの生前贈与を非課税とし、将来贈与者が死亡した際の相続税の課税対象に、その生前贈与分を加算する制度をいいます。贈与年の1月1日において成人である子や孫が、60歳以上の贈与者ごとに選択することが可能で、次のようなメリットがあります。
高額な財産を、一度に贈与しやすい
贈与税よりも相続税の課税対象になる方が、税負担が低い場合が多い
▼現行の相続時精算課税のデメリット
現行の相続時精算課税には、相続税対策の面で大きな欠点があります。それは、贈与税の原則的な課税方法である「暦年課税」には年110万円の基礎控除があるのに、相続時精算課税にはそれがないことです。
あくまで現行の相続時精算課税は、まとまった額の生前贈与を受けたい場合に選択すると、贈与税を負担するよりは良い結果になりやすいというだけであって、相続税を減らすものではありません。
一方、暦年課税による基礎控除以下の贈与なら、非課税であり、さらに税務申告も原則不要です。暦年課税のまま、年110万円以下で毎年生前贈与を行えば、申告手続きの負担もなく無税で財産を子や孫に移転できるため、これまでは「相続税の節税対策に有効なのは、暦年課税」とされてきました。
▼相続時精算課税に基礎控除が新設
令和6年以降、相続時精算課税でも、2500万円とは別枠で、年110万円の基礎控除が使えるようになります。このことは、相続時精算課税でも暦年贈与と同様の相続税の節税効果が得られるようになり、さらに申告手続きの負担も軽減され、使い勝手が格段に向上したことを意味します。
▼新・相続時精算課税が有利に
現行の暦年課税には、相続前3年内に行われた生前贈与があると、基礎控除を含めた全額が、相続財産に加算されてしまう「生前贈与加算」のルールがあります。さらに、今回の税制改正によって、この加算対象の期間が、現行の「3年内」から「7年内」に延長されることになりました。しばらくは現行のままですが、令和6年以降の贈与から徐々に加算期間が延長され、令和13年1月1日以降の贈与から「7年内」に完全移行します。ただし、延長分(4年内~7年内の贈与)のうち100万円は相続財産に加算されないことにもなりました。これに対して、相続時精算課税には生前贈与加算のルールがありません。暦年課税が抱えるデメリットがなく、同額の基礎控除が使えるのですから、改正後の相続時精算課税は、暦年課税よりも有利に生前贈与を進めることができます。
▼相続時精算課税の注意点
それなら、全員が相続時精算課税で贈与をすれば必ず得をするようになるのかというと、そうではありません。相続時精算課税で宅地を贈与する場合、次の影響を受けることを知っておく必要があります。
贈与した宅地は、相続税の小規模宅地等の特例の対象にならない
贈与時の時価で、相続財産に持ち戻される
影響が大きいのは、小規模宅地等の特例が使えなくなることです。特に、相続時精算課税で贈与した宅地が、特例による減額なしで相続税の課税対象になると、相続税の基礎控除を超えてしまうケースでは、慎重な検討が必要になります。
相続税の節税対策は、相続までに時間があるほど効果の高い対策ができることが多いです。相続対策を始めたい不動産オーナー様は、税理士などに早めにご相談ください。
一級FP技能士 石田夏
コメント