建物の賃貸借契約では、賃料以外にも様々な名目の金銭授受が行われることがあります。具体的には、敷金、保証金、権利金、礼金、更新料などです。今回は【更新料】について解説していきます。
▼更新料の性質
更新料などの金銭は、民法や借地借家法で定められたものではなく、各地域の「慣行」によるものです。
国交省の調査によると、敷引き特約(敷金ないし保証金という名目で賃貸借契約成立時に賃貸人に差し入れられた金銭から、明渡し時に一定額ないし一定割合を差し引く旨の特約)が定められているケースは、京都、兵庫、福岡では半数から大多数、大阪では3割程度、東京では5%程度ということです。
また、更新料特約(契約期間終了時に契約を更新する際に一定額を賃貸人に差し入れる旨の特約)が定められているケースは、東京や神奈川では半数以上、大阪や兵庫ではゼロということです。
本稿のテーマは「更新料」ですが、更新料は一部地域の「慣行」にすぎず、そもそも更新料とは何を意味するのかについて法律上の定義はありません。
▼更新料に対する最高裁の見解
最高裁判所平成23年7月15日判決は、更新料について次のように述べています。
更新料は、期間が満了し、賃貸借契約を更新する際に、賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは、賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し、具体的事実関係に即して判断されるべきであるが、更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。
また、更新料は、「慣行」にすぎず、「商慣習ないし事実たる慣習」ではありません(最高裁判所
昭和51年10月1日判決)。そのため、当事者が賃貸借契約の内容とすることに合意した場合に限って更新料の支払義務が発生します。ちなみに、「商慣習ないし事実たる慣習」が存在するとされると、法の適用に関する通則法3条によって当該慣習は法律と同一の効力を有することになります。
▼民法の規定と消費者契約法
民法の規定は、①強行規定と②任意規定とに分かれます。強行規定は公の秩序に関するものであるため、強行規定に違反する契約は無効になります。これに対し、民法の多くの規定は任意規定であり、当事者の意思を尊重して契約の方を優先します。
更新料は、民法や借地借家法で定められた金銭ではないものの、消費者契約法が施行されるまでは、当事者が更新料の授受を合意すれば、更新料の支払義務があることを裁判所は認めていました。
しかし、消費者契約法の施行によって事情は大きく変わりました。なぜなら、消費者契約法10条は、①任意規定よりも消費者の義務を加重する契約で、②信義則に反して消費者の利益を一方的に害するときは、当該契約内容を無効にすると規定しているからです。
消費者契約法との関連に関しては次号で解説します。
元弁護士Y
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