近年の値上げ基調に応じて家賃増額を考えるオーナー様もいらっしゃると思います。今回はその考え方や進め方について解説していきます。
▼家賃増額の考え方
賃貸人が家賃を増額したいときに最優先でやるべきは、賃借人に対して家賃増額の正当化根拠を説明して家賃増額を納得してもらうことです。
というのは、賃借人の承諾を得ることに失敗すると、賃貸人の側から調停や裁判をしなければならず、手間も時間もお金もかかってしまうからです。これがどれだけ大変なのかをご理解いただくために、家賃増額に関する法律や裁判例を説明します。
借地借家法32条は「借賃増減請求権」について規定し、
①賃料が不相当になったこと
②賃料を増額しない旨の特約がないこと
の2つの要件を満たした場合に限って賃料の増額請求を認めています。賃料増額請求権は形成権であるため、賃貸人が賃借人に対して賃料を増額する意思表示を行い、その意思表示が賃借人に到達すれば(賃借人が承諾しなくても)賃料増額の法的効果が発生します。
▼家賃増額に対する借主対応
賃料増額請求権を行使された賃借人の対応としては、
①増額された新賃料を支払う
②増額前の旧賃料を支払う
③賃料の支払を拒否する
のいずれかが想定されます。
このうち③は賃借人の債務不履行になるため、賃料不払いの程度が概ね3か月程度に到達すれば賃貸借契約を解除して退去させることができます。
問題は①と②の場合です。まず①ですが、賃借人が新賃料に納得して支払う場合は問題ありませんが、賃借人が新賃料に納得しないで支払う場合は、後日裁判で確定した適正賃料と新賃料との間に差額があれば年10%の利息を上乗せして賃借人に返還しなければなりません。
つぎに②ですが、賃料増額請求を受けた賃借人は「賃借人自身が適正賃料だと考える賃料」を支払えばよい(賃借人が支払った金額が後日裁判で確定した適正賃料を下回ったとしても債務不履行にはならないが、後日裁判で確定した適正賃料と新賃料との間に差額があれば年10%の利息を上乗せして賃貸人に支払わなければならない)とされています。
ただし、賃借人が旧賃料が公租公課、すなわち固定資産税、都市計画税、下水道の受益者負担金などを下回る旨を認識していながら旧賃料を支払い続けたときは、③と同じ処理、すなわち賃料不払いの程度が概ね3か月程度に到達すれば賃貸借契約を解除して退去させることができます。
▼貸主の次なる策は?
ここまでをまとめると、①賃貸人が賃借人に対して新賃料を請求すれば賃料は自動的に新賃料に変更されるが、②賃借人が旧賃料を支払い続けるのであれば原則として賃貸借契約を解除することはできず(例外的に解除できるのは、旧家賃が公租公課を下回っている旨を賃借人が知りつつ支払い続けたとき)、③旧賃料を支払い続ける賃借人から新賃料の支払いを受けるためには賃貸人から調停の申立てをするしかない、ということになります。
借賃増額請求権は調停前置主義が採用されているため、裁判をする前に必ず調停申立てをしなければなりません。これがとても大変です(続く)。
元弁護士Y
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