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災害で賃貸物件が損壊したとき②

 今回は、賃貸物件が滅失に至らず修繕が可能なときの賃貸人の法的義務について検討していきます。


▼賃貸人の義務

 賃貸人の最大の義務は賃貸物件を賃借人に使用収益させることです。そのため、賃貸物件が滅失に至らず修繕が可能なときは、賃貸人は賃貸物件を速やかに賃貸人のお金で修繕し、賃借人が

使用収益することが可能な状況まで復帰させなければなりません。

 これに対し、仮に賃貸人が修繕を拒否すると、賃借人としては、①自ら修繕して賃貸人にその費用を請求するか、②修繕しないまま放置するかのどちらかを選択することになります。

この①を「必要費償還請求」と言います。必要費償還請求権は、賃借人が必要費を支出した瞬間に直ちに発生します。

賃借人は、賃貸人に対し、これまでどおり賃料を支払った上で必要費相当額の金銭請求をしてもよいし、賃料の支払いを停止して必要費相当額を全額回収するまで賃料と相殺することもできます。


▼家賃滞納がある場合

 賃借人が既に三か月程度の賃料の不払いをしているときは、賃貸人は賃料不払いを理由として賃貸借契約の債務不履行解除をすることができます。

 このとき、賃借人が必要費と賃料とを相殺することができれば、賃料の不払いの事実は過去にさかのぼって存在しなかったことになり、賃貸借契約の解除を防ぐことができます。

しかし、ある高裁判決は、賃借人が必要費と賃料とを相殺するためには、賃貸人が解除の意思表示をする前に必要費償還請求権を行使しておかなければならないと判断しました。

 賃貸人の側から考えると、賃料の不払いが続いている賃借人がいるときは、直ちに解除の意思表示をすべきであるということになります(解除の意思表示は、後で言った言わないとなることを避けるため、通常は配達証明付きの内容証明郵便で行います)。


▼『修繕は賃借人負担』の特約がある場合

 賃貸借契約書で「修繕は賃借人が行う」とか「必要費は賃借人の負担とする」といった特約がある契約もあると思います。

 法的には、修繕を大修繕と小修繕とに分けて、小修繕はこのような特約をすれば賃借人の負担とすることができるものの、大修繕についてはこのような特約があったとしても賃貸人の負担となります。

 壁のクロスや床のカーペットの張替えは大修繕であるとされていますので、災害を原因とする修繕の多くは大修繕に該当し、賃貸人が修繕義務を負うことになるものと考えられます。

 なお、このような特約があったとしても、賃貸人から賃借人に対して小修繕の費用を請求することはできません。このような特約は、あくまでも賃貸人の修繕義務を免除する効果しかなく、賃借人に対し、賃借人のお金で小修繕をする義務を課すわけではないからです。

 あくまでも賃借人が自主的に小修繕を行ったとき、そのお金は賃借人が負担するという意味にすぎません。


元弁護士Y



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