前回に引き続き保証会社が賃貸借契約を解除したことを最高裁判所が無効とした件について解説していきます。
▼契約解除ができる判例
賃借人が家賃を滞納したとき、賃貸人は、賃借人の債務不履行を理由として賃貸借契約を解除することができます。しかし、賃貸借契約の解除は賃借人の生活の基盤を失わせるという重大な事態を招くため、裁判例では、滞納額が家賃3か月分程度になり、かつ催告をしても滞納家賃の支払がなされないケースでなければ解除を認めていません。
ただし、賃貸借契約は賃貸人と賃借人との信頼関係に基づくため、家賃の滞納の程度が重大であり、既に信頼関係が破壊されて回復することが期待できないと言える場合には催告をせず、いきなり解除の通知をしてもよいものとされています。裁判例では、滞納額がおおむね家賃6か月程度になれば無催告解除を認めています(実務では、無催告解除ができる事案であっても催告をした上で解除をするのが通常です)。
▼今回の事例と今後の判断
さて、家賃保証会社フォーシーズ㈱の事例ですが、最高裁は、家賃保証会社が賃借人の代わりに滞納家賃を支払うと「家賃の滞納」という事実がなくなるため、賃貸人は家賃滞納を理由として賃貸借契約を解除することはできないとの判断を示しました。
ただし、「信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような 不信行為」と言えるほどの滞納額に達した後に家賃保証会社が滞納家賃を支払った場合には、賃貸借契約の無催告解除を認めています。
今回の判断を含め滞納状況に応じた対応方法をまとめると、
家賃1~2か月分の滞納があるケースでは、家賃保証会社が支払いをしてもしなくても賃貸人は賃貸借契約の解除をすることはできない
家賃3~5か月分の滞納があるケースでは、家賃保証会社が支払いをしなければ賃貸人は催告をした後であれば解除できるが、家賃保証会社が支払いをすれば催告をしても解除できない
家賃6か月分の滞納があるケースでは、滞納の時点で信頼関係は破壊されているので、家賃保証会社が支払いをしてもしなくても賃貸人は無催告解除をすることができる
と整理することができます。
▼家賃保証会社の利用の仕方
家賃保証会社を利用する賃貸経営者の立場からどうすべきかですが、家賃保証期間がある間に立退きまで済ませることを最優先にすべきです。
フォーシーズ㈱であれば53ヶ月分の家賃を保証してくれますので、その間に裁判を終えて賃貸物件の明渡しまで完了することを考えると、裁判にかかる時間として36ヶ月程度を見込み、その間は家賃保証会社に対応を任せておけばよさそうです。
ただし、最高裁は家賃保証会社による賃貸借契約の解除に否定的ですので、賃貸借契約の解除は賃貸人の名前でしたほうがよいでしょう。
家賃保証会社が賃貸借契約の解除を求めるケースでは既に賃借人の返済が期待できなくなっており、明渡訴訟に移行することが想定されます。現にフォーシーズ㈱の場合は、弁護士が賃貸人の代理人として法的手続をしています。同様のケースでは、催告と解除通知も弁護士にと頼んでみてもよいでしょう。
元弁護士Y
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