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賃借人の破産と残置物①


 昨年11月、神奈川県内に28店舗を展開するベーカリーチェーンの社長が失踪しました。

 社長の失踪後、50億円を超える負債が判明したことから、全店を直ちに閉店した上で、残された取締役が相談して会社を破産することにし、今年の2月、破産申立てがなされました。

 賃貸経営者の立場でこのニュースを見ると、28店舗のパン屋がそのままの状態で閉店状態にあり、賃料の支払いがなされないままになっているという問題に気づくことでしょう。


▼賃貸人からみた問題点

 ベーカリーの運営会社は多額の負債を抱えて破産を予定しているということですから、賃料の支払いはもとより、賃貸物件の原状回復も見込めません。パンの発酵機、オーブン、作業台、各種の型、ガラスケース、レジ、看板などの様々な什器・備品がそのままの状態で残されており、これらを撤去して元通りにしなければ新たな借り手を入れることもできません。

 入居時に徴収している敷金があれば、未払賃料や原状回復費用に充当することができますが、賃貸物件の明渡しが遅れれば遅れるほど、賃料相当損害金は増えていき、すぐに敷金を超えてしまうことでしょう。


▼破産申し立ては早かった

 冒頭のケースでは、社長の失踪後、3か月で破産の申立てがなされています。申立て代理人としての実務感覚で言えば、株式会社の破産申立書の作成には非常に時間がかかることに加えて(債権者に手紙を出して債権調査をするだけでも2か月はかかります)、予納金を工面する必要もあるため(裁判所が指定する予納金を事前納付しないと、裁判所は破産申立てを却下します。冒頭のケースでは五百万円程度の予納金が必要だったと思われます)、3か月での申立ては非常に早いと感じられます。

 冒頭のケースでは、社長が失踪するまで負債の存在は役員を含めて誰も知らなかったということですから、税務申告書も粉飾されていたであろうことがうかがわれ、失踪中の社長の協力が得られない中、わずか3か月で破産債権の調査を終え、予納金を工面し、破産申立てをしたことについて、心からの敬意を表したいほどです。


▼この先の流れと懸念事項

 賃貸人の側から見れば、この間、物件は閉店直後からそのままの状態で、賃料の支払いが得られない状況が続いていることになります。

 その間、裁判所が破産開始決定をすると、破産管財人が賃貸借契約を継続するか解除するかを選択することになります(破産法53条)。

 破産管財人は、賃借権が売却できたり事業継続の理由があったりして賃貸借契約を維持する必要がない限り、通常は賃貸借契約を解除する選択をします。破産管財人が賃貸借契約を解除するまで、最短でも2~3か月かかります。

 このように、賃貸人が漫然と事態を放置すると、賃借人の事業停止から破産管財人による賃貸借契約の解除まで、最短でも半年程度の時間がかかり、その間、賃貸物件が利用できない状態が続くことになります。

  (元弁護士Y)

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